AIによってメガネ不要で3D体験を可能にするディスプレイシステム「EyeReal」が発表される

これまで3D映画やテレビ番組を楽しむには、専用のメガネやディスプレイを用意する必要がありました。上海人工智能実験室と復旦大学の研究チームが、AIを活用することで特殊なメガネを必要とせず、かつてないほど広い視野角を持つ3D映像体験を実現するシステム「EyeReal」を発表しました。
Glasses-free 3D display with ultrawide viewing range using deep learning | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-025-09752-y
《Nature》:AI驱动,光学信息运用全新范式!书生·瞳真实现“真·裸眼3D”,零穿戴、超广角、高保真 - 上海人工智能实验室
https://www.shlab.org.cn/news/5444217
従来の裸眼3Dディスプレイ開発における最大の壁は、光学システムにおける「空間帯域幅積(SBP)」です。これまでの研究で、画面の大きさという「空間的な広がり」と、映像が見える角度を示す「帯域幅」の間にトレードオフの関係があることがわかっています。つまり、画面を大きくしようとすれば視野角が狭くなり、逆に広い範囲から見えるようにすれば画面サイズを小さくせざるを得ないというわけです。
たとえば、裸眼での3Dを実現するホログラフィックディスプレイは広い視野角を持ちますが、数センチメートル程度のサイズに限られます。一方で、振動や構造物で光を拡散させて複数の視線を示すタイプのディスプレイは画面を大きくできるものの、3D映像が見られる角度はかなり限られてしまうという問題があります。
今回開発されたEyeRealは、物理的な限界を突破しようとするのではなく、限られた光学情報を「人間の目がある場所」に集中させることで、この問題を解決するというアプローチに基づいています。研究チームは、市販の液晶パネル(LCD)を複数枚重ね、バックライトと偏光板を組み合わせた比較的安価なハードウェア構成を採用しました。特殊なレンズアレイや高価な光学素子を必要とせず、一般的な消費者向けの部材で構成されている点が特徴です。

システムの核となるのは、物理的に正確な両眼視モデルとディープラーニングを組み合わせたアルゴリズムです。EyeRealは深度センサー付きカメラ(RGB-D)を用いて観察者の瞳孔位置をリアルタイムで追跡し、その瞬間の目の位置と、その周辺領域に対してのみ最適な光場を生成します。

具体的には、ニューラルネットワークが網膜上の画像を解析し、多層の液晶パネルがどのように光の位相を変調すべきかを物理法則に基づいて計算します。この処理は50Hz以上のリフレッシュレートで実行されるため、観察者が頭を動かしても遅延なく追従し、常に正しい3D映像を届けることが可能です。
この技術によってEyeRealは、100度を超える超広角な視野と解像度1920×1080ピクセルの両立に成功しましたとのこと。実験では、複雑な都市景観や日常的な物体などの3Dコンテンツを用いて検証が行われ、観察者は水平・垂直・前後のどの方向に動いても、途切れることのない滑らかな運動視差を体験できたとのこと。さらに、焦点距離に応じたボケ味を再現する「焦点調節」にも対応しており、従来のVR/AR機器で問題となっていた、目のピント調節や向きの不一致による不快感を軽減する効果も示されています。

上海人工智能実験室は、この技術が「AI for Science」の文脈でも重要な意味を持つとしています。また、EyeRealが天体物理学における銀河の立体構造の可視化や、生物医学分野での細胞の動的変化の観察など、研究者が直感的かつ没入的にデータを扱うための新しいツールとなることに期待を寄せています。さらに、光場情報の利用効率を高めるこのアプローチは、AIモデルが現実世界の複雑な物理現象をより正確に理解しシミュレーションするためのデータ基盤にもなり得ると論じました。
また、研究チームは今後の展望として、「AIシステムのさらなる洗練」と「複数人が同時に視聴できるマルチユーザー対応へのアップグレード」を目指しています。EyeRealは記事作成時点で単一の観察者に最適化されていますが、同時分割表示や指向性バックライト技術などを統合することで、将来的には複数のユーザーが同時にそれぞれの位置から自然な3D映像を楽しめるようになることが期待されます。
・関連記事
ホログラフィックディスプレイ&高性能カメラモジュールシステム搭載の「RED Hydrogen One」に触れるムービーが公開される - GIGAZINE
360度どこからでも立体映像を見ることができるキューブ型3Dディスプレイ「gCubik」 - GIGAZINE
世界初のホログラフィックディスプレイ搭載スマホ「Hydrogen One」 - GIGAZINE
専用メガネなしでどの座席からでも映画が立体的に見える新たな裸眼3D技術「Cinema 3D」 - GIGAZINE
ソニーの安価な「3Dディスプレイ」速攻フォトレビュー、PS3との組み合わせで真価を発揮 - GIGAZINE
3D映画ブームを一過性で終わらせないためにどうすればいいのか、歴史と技術をひもとく - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in ハードウェア, サイエンス, Posted by log1i_yk
You can read the machine translated English article EyeReal, a display system that enables g….







