サイエンス

ウナギの粘液に含まれる成分がサルモネラ菌などの下痢を引き起こす細菌の感染を防ぐ


マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、ウナギやドジョウのぬるぬるした粘液に含まれるムチンという分子がサルモネラ菌の感染を防ぐメカニズムを解明しました。この発見は、食中毒や旅行者下痢症などを予防あるいは治療するための、抗生物質に代わる新たな合成分子の開発につながる可能性があります。

Mucus-derived glycans are inhibitory signals for Salmonella Typhimurium SPI-1-mediated invasion: Cell Reports
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(25)01075-7

Study shows mucus contains molecules that block Salmonella infection | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2025/study-shows-mucus-contains-molecules-that-block-salmonella-infection-0925

ムチンは動物由来の高分子糖タンパク質で、ウナギやドジョウの表面をおおう粘膜や、食道や腸などの消化器で分泌される粘液などに含まれています。このムチンには細菌などの微生物を積極的に抑制する機能があることがわかっていましたが、なぜ微生物に対して有効な防御策になっているのかの機序は明らかになっていませんでした。

今回の研究により、腸に存在するムチンの一種である「MUC2」が、サルモネラ菌が宿主細胞に侵入し感染するために利用する遺伝子群を不活性化させることが明らかになりました。

サルモネラ菌は細胞に感染する際、「III型分泌装置(T3SS)」と呼ばれる針のような構造物を形成します。このT3SSの設計図となる遺伝子群は、サルモネラ菌染色体のSPI-1というDNA領域にまとめられています。

by Schraidt O, Lefebre MD, Brunner MJ, Schmied WH, Schmidt A, Radics J, Mechtler K, Galán JE, Marlovits TC

研究チームは、MUC2がサルモネラ菌のHilDという調節タンパク質を不活性化させることで、SPI-1遺伝子群全体の働きを止め、結果として菌が細胞に感染できなくなることを明らかにしました。また、胃に存在するMUC5ACという別のムチンも、同様にサルモネラ菌の侵入を抑制する効果があることが確認されています。


さらに、この感染抑制効果の主役は、ムチンのペプチド骨格に結合しているグリカン(糖鎖)という複雑な糖分子であることが特定されました。特に、グリカンを構成するN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)という2つの単糖がHilDの特定の部位に結合し、その機能を阻害する可能性が示唆されています。

加えて、これらの単糖が単独で存在するよりも、ムチンのようにペプチド骨格に結合した状態(糖ペプチド)で提示される方が、SPI-1遺伝子を抑制する効果が大幅に高まることが実験で示されました。一方で、グリカンの末端がシアル酸で覆われている場合、この抑制効果は完全に失われることも判明しました。


研究チームは今回の発見を応用し、体の自然な防御機能を高めるための合成ムチンの開発を進めています。サルモネラ菌は粘液のバリアが薄い、あるいは存在しない場所を狙って感染することが知られているため、合成ムチンでこれらの弱点を補強できるというわけです。

合成ムチンの実用化には、下痢による脱水症状の治療に用いる経口補水塩への添加や、食中毒のリスクが高い地域へ旅行する前に摂取する方法などが検討されているとのこと。さらに合成ムチンを使った予防は生来の免疫システムの一部として機能するため、研究チームは特に感染前の予防薬として大きな効果を発揮すると期待しています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article Components in eel mucus prevent infectio….