サルモネラに汚染されたチョコレートがヨーロッパで流通中、同種の食中毒事例は世界でどれだけ起きているのか?


嫌気性細菌のサルモネラの一部には病原性を持つものがあり、急性胃腸炎や腸チフスなどの感染症を引き起こします。サルモネラ食中毒は調理が不十分な肉やサラダが原因となることが多いですが、ヨーロッパではチョコレートを原因とするサルモネラ食中毒が2022年に入って150件以上発生。オーストラリア連邦大学の微生物学者であるデビット・ビーン氏とアンドリュー・グリーンヒル氏が、チョコレートによるサルモネラ食中毒について解説しています。

Surprise! There might be salmonella in your chocolate
https://theconversation.com/surprise-there-might-be-salmonella-in-your-chocolate-180813

ヨーロッパ食品安全局(EFSA)によると、2022年4月8日の時点でサルモネラ食中毒の感染事例が、ベルギー・フランス・ドイツ・アイルランド・ルクセンブルグ・オランダ・ノルウェー・スペイン・スウェーデン・イギリスで、10歳未満の子どもを中心に150件以上報告されているとのこと。原因はベルギー産のチョコレートと特定されており、2022年4月2日から各国の管轄当局から公衆衛生上の警告が発令され、2022年4月8日に問題の製品の自主回収が実施されたとのこと。

「チョコレートが原因でサルモネラ食中毒に感染した」というケースはそこまで一般的ではありませんが、これまでに何度も報告されています。1970年にはサルモネラに汚染されたカカオ粉末が原因で、スウェーデンで110人がサルモネラ食中毒に感染したという報告があります。また、1973年から1974年には、クリスマス用のチョコレートボールからのサルモネラ食中毒感染がカナダで95例、アメリカで30例報告されています。さらに、1982年~1983年にイギリスで245人もの感染者を出したケースでは、イタリアで生産された2種類のチョコレートバーが原因だということが判明しました。

1985年~1986年には、カナダとアメリカでサルモネラ食中毒が33例発生。この原因はベルギーから輸入された硬貨型チョコレートでした。また、1987年にノルウェーとフィンランドで報告された361例のサルモネラ食中毒感染もチョコレートが原因とされており、実際の感染者数は2万人~4万人と推定されています。くわえて2001年~2002年には、ドイツのとあるスーパーマーケットチェーンで独占的に販売されていた特定ブランドのチョコレートによって少なくとも439人がサルモネラ食中毒に感染したそうです。さらに直近では、2006年にイギリスでチョコレートを原因とするサルモネラ食中毒が56例報告されています。

チョコレートの原料となるカカオの多くはアフリカ西部の農場で作られています。農場で収穫されたカカオは発酵してから乾燥されますが、この間にカカオが動物や周囲の土などによってサルモネラで汚染される機会は十分あります。カカオの豆はチョコレート工場で焙煎(ばいせん)されますが、この焙煎が不十分だとサルモネラを殺菌できない可能性があります。


また、チョコレート工場の衛生管理も問題があります。2006年のイギリスで発生したサルモネラ食中毒は、チョコレート工場でパイプから漏れた水がチョコレートに流れ込んでいたのが原因だったと指摘されました。

2022年4月の事例では、原因となったチョコレートを生産するメーカーは衛生対策を十分に行っており、サルモネラの検査も行っていたそうです。メーカーは2021年12月に、ベルギーに構える施設のバターミルクタンクからサルモネラの1種であるSalmonella Typhimuriumを検出したそうですが、その後の製品ではサルモネラの検査が陰性だったため、チョコレートを出荷したとのこと。2022年3月に行われた分子疫学調査から、このバターミルクタンクで繁殖したサルモネラが一連の食中毒事例の原因であることが判明しました。

ビーン氏とグリーンヒル氏によると、サルモネラは水分の少ないチョコレート中では増殖しないものの、死滅せずに生き残ることがよくあるとのこと。一度サルモネラに汚染されてしまったチョコレート製品はたとえ適切な食品安全技術で作られていても、長期間にわたって食品安全上のリスクとなり、広範囲にサルモネラの感染を拡大させる可能性があるというわけです。

また両氏は、チョコレートは子どももよく食べる菓子であり、小さな子どもがサルモネラ食中毒に感染すると重篤化することがある点も注意すべきポイントだとしています。


ほとんどの製菓メーカーは、製品の品質と安全性を確保するために、厳しいガイドラインの下で生産しており、チョコレートの安全性を確保するために、適正な製造工程と食品安全ガイドラインを確立しています。ビーン氏とグリーンヒル氏は、メーカーはチョコレートに含まれるサルモネラ菌などの病原体を検出あるいは排除しようと努めていると評価しました。

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in , Posted by log1i_yk

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