食べ物にウイルスを加えて安全な食品を提供するという方法

By sheri chen

食中毒は何か特別な理由があって起こるのではなく、毎日の食事でも有害な微生物を含んだ飲食物を摂取した際に起こり得ます。これを防ぐためには有害な微生物を含まない安全な食品を製造すればよいのですが、これは消費者が考えるよりもはるかに大変なことで、現在では微生物を破壊するために食品の製造過程で「ウイルス」を使用する方法が取られることもあります。

For Safer Food, Just Add Viruses — NOVA Next | PBS
http://www.pbs.org/wgbh/nova/next/nature/phages-for-food-safety/

◆細菌とソーセージ
2012年3月にアメリカ農務省の検査官はテキサス州、エルギンにある小さな食肉加工業者が作るビーフソーセージが、危険な細菌であるリステリア菌を含んでいたとことを明らかにしました。この菌を摂取すれば体調が悪くなったり、最悪の場合には死に至ることもあります。これにより製造元の食肉加工業者は1トン以上のソーセージをリコールすることになりました。

このようなリコールは会社の評判に壊滅的なダメージを与えるので、リステリア菌は食品製造業者の大きな悩みの種となっています。燻製工場のNorth Country Smokehouseを経営するMike Satzow氏もこの問題に頭を悩ませたうちの1人。


Satzow氏の工場では特殊な品種の豚の肉を使い、黒いメープルシロップのスラリーと香辛料でマリネにし、これをリンゴの木でスモークします。「我々のように小さな会社を持っていると、自分が作ることのできる最高のものをただ作りたいと思うでしょう」とSatzow氏は言います。Satzow氏の工場ではリステリア菌を消滅させるのに十分な温度でソーセージを調理しますが、「熱処理ステップとパッケージングステップの間に、どうしてもリステリア菌が製品の中に混入してしまう」とのこと。


Satzow氏は数年にわたってリステリア菌が混入しないよう工夫を凝らし、さまざまな抗菌性製品や製造プロセスを採用してきました。そして2011年、彼はバクテリオファージと呼ばれる何十億ものウイルス粒子が含まれたListexというスプレーを使用するようになります。Listexはバクテリアを破壊しますが、人間や動物の細胞には無害というもの。現在Satzow氏の燻製工場ではスモーク処理が終わりパッケージング処理に向かう途中のベルトコンベヤー上でこのスプレーが噴出されることで、ソーセージにリステリア菌が混入しないようにしています。

このListexというスプレーの中には何十億ものバクテリオファージが含まれており、これが細菌を捕まえて遺伝物質を注入します。この仕組みについてアイルランドにあるTeagasc Food Research Centreの首席研究員Olivia McAuliffe氏は「バクテリオファージは『内部から細胞壁を開ける』という命令を細菌の細胞に直接命令することで増殖し、増えすぎたバクテリオファージにより細菌は破裂してしまう」と説明します。


約1世紀前からバクテリオファージは細菌感染に関する治療で使用されるようになりましたが、食品産業は新しいイノベーションへの対応が遅いので、過去数十年の間これの使用に反対する考えが存在してきました。しかし、現在では食品業界からもバクテリアファージの支持を得られるようになってきており、実際にListexを開発・販売するオランダの企業Micreos Food Safetyの成長速度はすさまじい勢い、とのこと。

◆バクテリアファージ
食品業界で注目されるようになったバクテリオファージの存在の可能性は、1800年代の終わり頃に浮上しました。しかし実際に発見されたのは1915年に赤痢がパリの郊外に配置されたフランス軍の内部で発生した際です。フランスのパリにあるパスツール研究所の微生物学者フェリックス・デレル氏が赤痢を調査しに行き、兵士の腰掛けから得られた細菌をプレート上で培養していた際に細菌が破壊されているのを発見。デレル氏は「私は赤痢菌の消失と、病原体に反抗する特性を持つ目に見えない微生物(バクテリアファージ)の存在を同時に見つけた」と1917年に発表された彼の論文の中で記述しています。

その後1930年代まではソ連の研究者たちが「バクテリオファージがすべての種類の伝染病に有効な治療法かどうか」を証明するために実験を繰り返していました。第二次世界大戦時にはソ連の医者は戦傷者を治療するためにバクテリオファージを使用、アメリカの科学者もバクテリオファージを使用した治療法について実験していました。しかし、この頃はまだバクテリオファージがどのように細菌に作用しているのかは全く理解されておらず、病人を治すこともあればそうでないときもあるウイルスといったあやふやな存在だったようです。ペニシリンやその他の抗生物質の出現でバクテリオファージを使った治療法は廃れていきますが、バクテリオファージは抗生物質よりも安価に手に入ったので、ソ連ではこれの研究が続けられていたとのこと。


そしてこのバクテリアファージが新しく進出していったのが食品安全性分野。人間が摂取する薬として承認されるよりも、食品の成分や添加物として承認される方がはるかに簡単に認証を通過できるということや、農家や大農場経営者などの食品製造の関係者はみな食品汚染の危険性を減らすための新しいイノベーションを求めていたという状況もあり、細菌を破壊するために食品に使用する薬として成り立ったようです。

Intralytixではリステリア菌を破壊する「ListShield」、O157やH7を抑制する「EcoShield」、サルモネラ菌のような危険な病原菌を破壊する「SalmoFresh」といった商品を販売しており、これらは全てアメリカ食品医薬品局により認可された安全なものとなっています。

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in サイエンス,   , Posted by logu_ii