「笑わせ、考えさせるユニークな研究」が評価される2025年度(第35回)イグノーベル賞全部門まとめ、日本人は19年連続受賞

アメリカの科学雑誌「Improbable Research」が主催するノーベル賞のパロディ「イグノーベル賞」の第35回授賞式が日本時間の2025年9月19日7時に、ボストン大学で開催され、10部門の賞が「笑わせ、考えさせるような興味深い研究」に贈られました。授賞者には日本人の研究グループもあり、日本人としては19年連続31回目のイグノーベル受賞となりました。
The 35th First Annual Ig Nobel Prize Ceremony – Improbable Research
https://improbable.com/the-35th-first-annual-ig-nobel-prize-ceremony/
・部門一覧
◆文学賞
◆心理学賞
◆栄養賞
◆小児科賞
◆生物学賞
◆化学賞
◆平和賞
◆エンジニアリングデザイン賞
◆航空賞
◆物理学賞
第35回イグノーベル授賞式はアメリカ・マサチューセッツ州にあるボストン大学の学生会館であるジョージ・シャーマン・ユニオンのボールルームで開催されました。

2025年度のテーマは「Digestion(消化)」でした。授賞式では賞の授与のほかに、このテーマに関する出し物も発表されます。

イグノーベル賞の授賞式では、受賞者によるスピーチがあります。ただし、時間制限は60秒。円滑に授賞式を進めるために、「ミス・スウィーティー・プー」と呼ばれる8歳の女の子が制限時間間近になると「スピーチをやめて、退屈しちゃった」と連呼するのが授賞式の目玉です。

ただし、今回はミス・スウィーティー・プーが会場に来ることができなかったため、代理として「研究員」のゲイリー・ドリフュス氏がエプロンを着けて担当することに。

受賞者には、人の顔が描かれた胃の模型でできたトロフィー、そして受賞したことを示す書類が贈られます。この書類には本物のノーベル賞受賞者が証人として署名します。

そして、賞金は毎年10兆ジンバブエドルだったのですが、「インフレによって高騰してしまった」という理由で、今年は使い捨ての濡れタオルが贈られます。

◆文学賞:35年間にわたり自身の指の爪の成長速度を粘り強く記録し、分析したことに対して
文学賞は、35年にわたって自分や家族の爪が伸びる速度を記録し続けたウィリアム・B・ビーン氏に送られました。ビーン氏は単に爪の長さを記録するだけではなく、中世占星術やアメリカの長編小説『白鯨』への言及などを記しており、「希望と苦痛、技術的な技巧、そして『健康センター』と呼ばれる非人格化の渦巻く現代医学教育法」の不毛さを嘆くなど、ウィットに富んだ内容が文学賞として評価されています。
A Note on Fingernail Growth - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022202X15483861
ビーン氏は記事作成時点で故人。授賞式にはビーン氏の息子であるベネット・ビーン氏が出席しました。

実際に測定された爪の長さとビーン氏のポートレート。ベネット氏は「あなたもそこにいて、あなたの爪もそこにある限り、無限に測定しつづけることができます」とコメントしました。

◆心理学賞:ナルシシストを含む人々に対して「あなたは知的だ」と伝えた際に何が起こるかを調査した研究に対して
心理学賞は、ワルシャワ大学の心理学者であるMarcin Zajenkowski氏とGilles Gignac氏に送られました。
Telling people they are intelligent correlates with the feeling of narcissistic uniqueness: The influence of IQ feedback on temporary state narcissism - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160289621000799?via%3Dihub
Zajenkowski氏らはポーランドで361名の参加者を募集し、参加者に他者と比較した自身の知能レベルを評価してもらった後、ポーランド版自己愛性人格検に回答させ、さらにIQテストを受けて自身の知能に対する認識を客観的な測定値と比較するよう指示しました。その後、参加者を2つのグループに無作為に分け、一方のグループには「確かにほとんどの人よりもIQが高い」と伝える肯定的なフィードバックを与え、もう一方のグループには否定的なフィードバックを与えました。
実験の結果、IQテスト後に肯定的なフィードバックを受けた参加者は、誇大型ナルシシズムの重要な側面である「自分はユニークだ」という感覚が高まることが示されました。Zajenkowski氏らは、外部からのフィードバックがその正確性にかかわらず、個人の知性に対する自己認識を形成するのに役立つと結論付けています。
スピーチでは、Zajenkowski氏とGignac氏が「幸せなら手を叩こう」のメロディーにのせて「自分が特別だと自覚しているなら手を叩きましょう」と会場の聴衆を煽りました。

◆栄養賞:西アフリカに生息するニジイロトカゲが特定の種類のピザをどの程度好んで食べるかを研究したことに対して
栄養賞は、ナイジェリア・イタリア・トーゴ・フランスの共同研究グループに贈られました。
African Journal of Ecology | Ecology Journal | Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/aje.13100
デンディ氏らの研究チームは、西アフリカの海岸でニジイロトカゲが観光客のピザを盗んで食べるのを目撃したことをきっかけに、この行動が一般的か、またトカゲに好みのトッピングがあるのかを調べるための実験を行いました。実験では、4種のチーズピザやアラカルトピザを用意してトカゲに選択させたところ、トカゲは4種のチーズピザのみを食べたとのこと。この結果から、研究チームはトカゲがチーズの化学的な手がかりに引き寄せられているか、あるいは消化しやすいからではないかと推測しています。
研究を主導したルカ・ルイセッリ氏は会場に来ることができなかったため、2019年ノーベル経済学賞受賞者であるエステル・デュフロ氏が「フランス国民がイタリア人研究者の代わりを務めます」と述べ、スピーチ原稿を代読しました。

◆小児科賞:授乳中の母親がニンニクを摂取した際に母乳の匂いがどのように変化し、それが赤ちゃんの行動にどう影響するかを研究したことに対して
2025年のイグノーベル小児科学賞は、授乳中の母親がニンニクを食べた際に、その母乳の匂いがどう変化し、赤ちゃんの行動にどう影響するかを調査したアメリカの研究チームに贈られました。
Maternal diet alters the sensory qualities of human milk and the nursling's behavior - PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1896276/
実験では、母親がニンニクカプセルを摂取した後、母乳は明らかに強いニンニクの匂いを放つことが確認されました。さらに、そのニンニク風味の母乳を飲んだ赤ちゃんは、普段よりも長く乳房に吸い付き、より多く吸引する行動が見られました。この研究は、授乳中の感覚的な経験が、離乳後の新しい食品への受容性や、将来の食の好みに影響を与える可能性を示唆しています。

ニンニクのイラストを表示して受賞スピーチを行うのは、シカゴ大学の生物学者であるゲイリー・ボーシャン氏。

しかし、スピーチが制限時間を超え、屈強すぎるミス・スウィーティー・プーが文句を言いに来たため、強制終了となりました。

◆生物学賞:ウシにシマウマのような縞模様を描くことでアブに刺されるのを避けられるかを検証した実験に対して
生物学賞は、牛にシマウマのような縞模様を描くことでアブに刺されるのを防げるかどうかを検証した日本の愛知県農業総合試験場の研究チームに送られました。

アブは家畜にとって深刻な害虫であり、牛がアブを避けるために行う行動は、採食時間の減少やストレスの増加を招き、結果として牛乳や牛肉の生産量に悪影響を与え、経済的な損失につながります。研究チームは、黒毛和牛にシマウマ模様を描き、縞模様のない牛や黒い縞模様のみを描いた牛と比較しました。その結果、シマウマ模様を施した牛は、他の牛に比べてアブの付着数が大幅に減少し、アブを追い払う行動も著しく減ることが確認されました。
この研究については、以下の記事でも取り上げています。
ウシにシマウマのシマ模様を描くと「吸血ハエの数が半分になる」と判明 - GIGAZINE

授賞式では研究メンバーである児嶋朋貴氏がスピーチ。

周囲の黒子がアブの絵やぬいぐるみを持って、児島氏を攻撃し始めます。

たまらず児島氏がスピーチ中にジャケットを脱ぐと、その下にはシマウマの模様をしたシャツを着込んでいました。

シマウマの模様を見せたことで、アブの攻撃がストップしました。

◆化学賞:テフロンの粉末を食品に混ぜることでカロリーを増やすことなく満腹感を得られるかを検証する実験に対して
化学賞はセントバーナバス医療センターの麻酔科医であるロテム・ナフタロビッチ氏ら、アメリカとイスラエルの研究チームに贈られました。
Polytetrafluoroethylene Ingestion as a Way to Increase Food Volume and Hence Satiety Without Increasing Calorie Content - Rotem Naftalovich, Daniel Naftalovich, Frank L. Greenway, 2016
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1932296815626726
この研究は、フライパンなどの焦げ付き防止コーティングに使われるテフロン(PTFE)の粉末を食品に混ぜることで、カロリーを増やすことなく食品全体の量と重さを増やし、満腹感を高めることができるかを検証するものでした。研究者たちは、テフロンが体内で消化されず、味もないため、人工甘味料のようにカロリーゼロの食品を実現する添加物として利用できる可能性があると提案しています。
なお、受賞者が会場に来ることができなかったため、2023年ノーベル化学賞受賞者であるムンジ・バウェンディ氏がスピーチを代読しました。

◆平和賞:飲酒が外国語を話す能力を向上させることがあるということを示した研究に対して
平和賞を受賞したのは、マーストリヒト大学のフリッツ・レンナー氏、リバプール大学のインジュ・カースバーゲン氏、マット・フィールド氏、ジェシカ・ベルスマン氏らのチーム。受賞内容は、少量のアルコールを摂取することが、外国語を話す能力を向上させることがあるという都市伝説を検証したものです。
Dutch courage? Effects of acute alcohol consumption on self-ratings and observer ratings of foreign language skills - Fritz Renner, Inge Kersbergen, Matt Field, Jessica Werthmann, 2018
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0269881117735687
実験の結果、少量のウォッカを飲んだ被験者は、ネイティブスピーカーからの外国語の流暢さの評価が向上したとのこと。これは、アルコールが言語に対する不安を軽減させるためではないかと研究者らは示唆しています。
スピーチは1997年ノーベル経済学賞受賞者のロバート・マートン氏と2022年ノーベル医学生理学賞受賞者のスヴァンテ・ペーボ氏が代読。レンナー氏らは国際会議の夜に寄ったバーで「酔っ払ったドイツ人はしらふのドイツ人よりもオランダ語の発音がうまい」ということに気付いたことが、この研究の出発点だったと述べています。

◆エンジニアリングデザイン賞:「悪臭を放つ靴が下駄箱の使用体験に与える影響」を工学デザインの観点から分析した研究に対して
インドの研究者であるVikash Kumar氏とSarthak Mittal氏が、エンジニアリングデザイン賞を受賞。学生寮の部屋で悪臭の強い靴が靴箱に入れられずに放置されていることに気付き、なぜ靴箱に入れられないかを分析した研究です。
Smelly Shoes—An Opportunity for Shoe Rack Re-Design | SpringerLink
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-981-16-2229-8_33
Kumar氏らは、「悪臭を放つ靴が下駄箱の快適な使用体験にどのように影響するか」を工学デザインの観点から分析。インドの高温多湿な環境下での靴の悪臭問題に着目し、その原因となるバクテリア (Kytococcus sedentarius) を殺菌するため、UV-Cチューブライトを内蔵した靴箱を設計・開発しました。

◆航空賞:アルコール摂取がエジプトフルーツコウモリの飛行能力と反響定位能力を損なうかを調査した研究に対して
コロンビア・ドイツ・イスラエルの研究チームに航空賞が送られました。これは、エジプトフルーツコウモリがアルコールを摂取することで飛行能力と反響定位(エコーロケーション)能力がどうなるのかを調査したものです。
Ethanol ingestion affects flight performance and echolocation in Egyptian fruit bats - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0376635710000446?via%3Dihub
自然界では熟した果物などから天然のアルコールが発生し、それを様々な動物が摂取することがあります。まれにアルコールを多く含んだ果物を食べた動物が酔っ払い、運動能力の低下から捕食されやすくなったり、事故に遭いやすくなったりする例が報告されています。研究チームは、エジプトフルーツコウモリが高いアルコール濃度の果物を避ける習性があることに着目し、これは酔うことを避けるためではないかと考え、実験を行いました。

実験は、屋外の長い飛行用ケージで飼育されているオスの成体コウモリを用いて行われました。研究チームは、コウモリに様々な濃度のエタノールを混ぜた液体の餌を与え、ケージの端から端まで飛ぶのにかかる時間を計測しました。また、同様の手順で、今度は超音波マイクを使ってコウモリの反響定位の鳴き声を記録する実験も行われました。
その結果、最も高濃度のエタノールを摂取したコウモリは、飛行時間が長くなり、飛行能力が損なわれていることが明らかになりました。さらに、それらのコウモリは反響定位の質も悪影響を受け、飛行中に障害物と衝突するリスクが高まることが示されました。
スピーチ中にコウモリのぬいぐるみを用意して話しかける受賞者。

しかし、スピーチが長すぎたため、ミス・スウィーティー・プーが「退屈しちゃった」を連呼。困った顔をしてすごすごと退散しました。

◆物理学賞:パスタソース、特に「カチョ・エ・ペペ」がダマになってしまう物理的な原因とそれを防ぐ調理法に関する発見に対して
マックス・プランク複雑系物理学研究所・バルセロナ大学・オーストリア科学技術研究所の共同研究チームが、2025年イグノーベル物理学賞を受賞。イタリア・ローマの伝統的なパスタであるカチョ・エ・ペペのソースを作るため、パスタをゆでる温度やデンプン濃度を科学的に追求した研究が評価されました。
受賞した研究の詳細は、以下の記事を読むとわかります。
物理学者がパスタ料理の「科学的に完璧なレシピ」を発表 - GIGAZINE

シェフのような格好をした受賞者たち。

「チャオママ!」とイタリア風の挨拶をし、スピーチ中に歌いながらパスタを食べ出す始末。

また、プレゼンターであるノーベル賞受賞者たちにも、パスタがふるまわれました。

なお、授賞式の様子は以下のムービーから見ることができます。
イグ・ノーベル賞2025 授賞式 翻訳字幕付きライブ配信 / The 35th First Annual Ig Nobel Prize Ceremony [Japanese Subtitles] - YouTube

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