サイエンス

ユニークで興味深い研究に贈られる第34回イグノーベル賞の全部門まとめ、日本人は18年連続30回目の受賞


アメリカの科学誌「Improbable Research(風変わりな研究の年報)」が1991年から主催する「イグノーベル賞」の第34回授賞式が、日本時間の2024年9月13日7時に開催されました。今回は5年ぶりのオフライン開催で、去年に引き続き日本人の研究チームが受賞しています。

The 34th First Annual Ig Nobel Ceremony
https://improbable.com/ig/archive/2024-ceremony/

授賞式の様子は以下のムービーで見ることができます。

The 34th First Annual Ig Nobel Ceremony (2024) - YouTube


・第34回イグノーベル賞部門
◆平和賞
◆植物学賞
◆解剖学賞
◆薬学賞
◆物理学賞
◆生理学賞
◆確率賞
◆化学賞
◆人口統計学賞
◆生物学賞

授賞式は、マサチューセッツ工科大学の第10講義棟250号室で開催されました。5年ぶりのオフライン開催ということで、参加者全員が思い思いの紙飛行機を持ち込んでいます。


授賞式では、遠方で紙飛行機を投げる動画も上映されました。中には2005年に栄養学賞を受賞したドクター中松の姿も。


今年のテーマは、1996年の物理学賞のテーマでもあった「マーフィーの法則」でした。


受賞者には10兆ジンバブエドル。ただしジンバブエドルは2015年に廃止されているため、金銭的な価値はありません。


第34回イグノーベル賞のトロフィーは以下。糊(のり)が付属した組み立てキットです。


◆平和賞
平和賞はB・F・スキナー氏の「(PDFファイル)ミサイルの飛行経路を誘導するために生きたハトをミサイル内に飼育することの実現可能性を調べる実験」に対して贈られました。


これは第二次世界大戦時に海軍研究所で行われた研究プログラムで、ミサイルの誘導にハトを使うことが検討されたというもの。まるでペリカンがハトをまるごと飲み込んでいるように、ミサイルの中にハトを飼育するので、このミサイルは「ペリカンミサイル」と呼ばれていたそうです。当然のことながら、ハトをミサイル誘導に使うことの実現可能性については懐疑的な意見が多かったそうで、スキナー氏は「物理学者よりもハトの方が制御しやすい」と嘆いていたそうです。


ハトを使ったホーミング装置は妨害電波に耐性があり、さまざまな射撃訓練に対応でき、希少な材料も必要なく、たった30日で製造が開始できましたが、当時核兵器開発のマンハッタン計画が進められていたこともあり、軍はこのプロジェクトを中止しました。スキナー氏の手元には大量のハトだけが残されましたが、1950年代初頭にこのプロジェクトが海軍研究所でなんと一時的に復活。レーダー・オペレーターのための映像コンバーターの開発につながり、正当性が評価されたとのことです。


◆植物学賞
植物学賞はジェイコブ・ホワイト氏とフェリペ・ヤマシタ氏の「本物の植物が隣接するプラスチック製の人造植物の形状を模倣することの発見」に贈られました。


ホワイト氏とヤマシタ氏は、チリ南部の熱帯樹林に生育するBoquila trifoliolataというつる植物をプラスチック製の藤の木にまとわせたところ、Boquila trifoliolataの葉色・向き・葉脈パターンがプラスチック製の藤の木についている偽物の葉を模倣したことを発見しました。


Boquila trifoliolataが宿主植物の模倣をすることは知られていましたが、どういう情報経路で模倣を行うかはわかっておらず、化学物質経由か遺伝子経由であると考えられていました。しかし、今回の実験でプラスチックの植物も模倣したことから、ホワイト氏とヤマシタ氏は「これまで考えられた2つの可能性は否定された」と論じています。


◆解剖学賞
解剖学賞はマジョレーン・ウィレムス氏らによる「毛髪形成における遺伝的決定論と半球の影響」に贈られました。


例えば、つむじの向きが時計回りか反時計回りかというような比較的些細な形質であっても、それが先天的なのか後天的なのかという問題があります。ウィレムス氏らの研究チームは、北半球に住んでいる人と南半球に住んでいる人、そして同性の双生児74組でつむじの向きをチェック。


その結果、双子のつむじの向きは同じであったことから、つむじの向きへの遺伝的影響は強いことが判明。さらに、南半球の子どものつむじ毛は北半球の子どもよりも反時計回りの傾向が高いこともわかり、研究チームは環境要因の可能性が示唆されたとしています。


なお、今回は5年ぶりのオフライン開催で、受賞者によるスピーチが会場で行われました。そのため、イグノーベル賞の授賞式の名物で、受賞者のスピーチが少しでも長引くと「もうやめて、退屈」とスピーチが終わるまで叫び続ける「ミス・スウィーティープー」という少女が復活。ウィレムス氏らはスピーチを切り上げてその場を後にしました。


◆薬学賞
薬学賞はリーベン・シェンク氏、ターミン・フェダイ氏、クリスチャン・ビュッヘル氏の「痛みを伴う副作用を引き起こす偽薬は、痛みを伴う副作用を引き起こさない偽薬よりも効果的である可能性があることについて」に贈られました。


シェンク氏らの研究チームは77人の健康な参加者に「フェンタニル鼻腔スプレーを投与する」と伝えて投与する実験を行いました。しかし、実際にはプラセボスプレーが使用され、一方のグループには中性のスプレー、もう一方にはカプサイシンを含むスプレーが与えられました。カプサイシンは軽度の灼熱感を引き起こし、偽の副作用として機能しました。


実験の結果、偽の副作用を引き起こすプラセボスプレーの方が、副作用のないプラセボスプレーよりも効果的に痛みを軽減することが明らかになりました。これは参加者が灼熱感を副作用として期待し、それによってスプレーが効いていると思い込んだためと考えられます。この研究結果は、薬の副作用に対する従来の見方に再考を促し、軽度の副作用が実際には治療効果を高める重要な役割を果たす可能性があることを示唆しています。


◆物理学賞
物理学賞はジェームズ・リャオ氏の「死んだマスの遊泳能力の実演と説明」に対して贈られました。


リャオ氏は10年以上にわたって、魚の泳ぎ方を研究してきたとのこと。魚は渦流のエネルギーを利用することでエネルギー消費を抑えていると考えたリャオ氏は、泳ぐ動きを変えて流れ​​に同期するニジマスを実験対象として選びました。


そして、ニジマスの死骸を流水装置に入れたところ、速度変化をつけることはできないという違いはあるものの、生きたニジマスと同じような動きをすることがわかりました。リャオ氏は「つまり、魚は渦流から十分なエネルギーを引き出して自身の抗力を克服することができ、羽ばたく物体はたとえ遠く離れていても、エネルギーを消費することなく、別の航跡を生成する物体を追うことができるということです」と主張しました。


◆生理学賞
生理学賞は、東京医科歯科大学と大阪大学で教授を務める武部貴則氏らの研究チームによる「多くの哺乳類が肛門呼吸できることの発見について」に贈られました。


この研究は新型コロナウイルス感染症による呼吸器疾患の治療法を探る研究の中で、ドジョウが腸を使って呼吸することができることにヒントを得て、哺乳類も水中などの低酸素環境において、液体を介して肛門から呼吸できることをマウスやラット、ブタで実証しました。


会場では受賞者らによる実演も交えてスピーチが行われました。


すると、スピーチが長引いたため、ミス・スウィーティープーが登場。受賞者はミス・スウィーティープーをなだめるために、ブタのぬいぐるみを賄賂として渡し、なだめます。


しかし、ミス・スウィーティープーはブタのぬいぐるみをしっかりと抱きしめたまま、再びスピーチへの文句を続けます。受賞者は苦笑いでその場を後にしました。


◆確率賞
フランチェク・バルトシュ氏らによる「コインを投げた時、最初に上にしていた面が出る確率の方が高いという理論を35万757回の実験で示したことについて」に、確率賞が贈られました。


コインを投げて表が出る確率と裏が出る確率は、理論的にはどちらも2分の1で等しいはず。しかし、実際にはコインの重心に偏りがあり、コインを投げるとその回転軸の方向が変化するため、最初の面を上にして空中にある時間がより長くなると研究チームは予想しました。


そこで、研究チームは48人で合計35万757回のコイントスを行い、すべて映像に記録して検証しました。その結果、最初に上にしていた面が出る確率の方がわずかに高いことが示されたとのこと。研究チームは、バイアスがないかを確認するさらなる実験が求められるとしていますが、「コイントスの高速カメラ録画を詳細に分析する必要があるため、これをテストするために必要な労力は過大であると思われる」と述べています。


◆化学賞
化学賞は、テス・ヒーアマン氏、アントワーヌ・デブレ氏、ダニエル・ボン氏、サンデル・ウォーターセン氏らによる「酔った虫と酔っていない虫を分離するためのクロマトグラフィーの使用」に贈られました。


この研究はアクティブマター(自己駆動粒子)に関するものです。アクティブマターとは自分で速度を変えられる物質や物体のこと。研究チームはイトミミズを高活性グループと低活性グループに分け、低活性グループにはエタノールを吸収させました。そして、両方のイトミミズを流路に放ちました。


その結果、エタノールを摂取していない高活性のミミズは、酔っぱらったミミズよりも先に流路の端まで到達。研究チームは、活性ポリマーを長さと活性で選別するには「構造化された空間中に流れる流路」が適していることを示しました。


会場では巨大なイトミミズのぬいぐるみを使って、受賞者たちがイトミミズの競争を熱演。


ミス・スウィーティープーも登場しましたが、受賞者から金メダルを首にかけられてなだめられていました。


◆人口統計学賞
人口統計学賞は、ソール・ジャスティン・ニューマン氏の「最も長生きしたことで有名な人々の多くが、出生と死亡の記録がきちんと保管されていない場所に住んでいたことの発見」に贈られました。


従来、100歳以上の長寿者が集中する「ブルーゾーン」は、強い社会的つながりや野菜摂取量の多さ、特定の遺伝的要因などと関連付けられてきました。しかしニューマン氏は、イタリア、イングランド、フランスなどで、貧困や低所得、高い犯罪率といった要因と長寿との意外な関連性に気づき、人口統計データを詳しく調査しました。


その結果、各ブルーゾーンのデータに多数の誤りがあることが判明しました。例えば、1997年のイタリアでは3万人の死亡者が年金を受給し続けていたり、2000年のコスタリカの国勢調査では99歳以上の42%が年齢を誤って申告していたことが分かりました。さらに2010年の日本では、百歳以上の高齢者23万人以上が行方不明、架空の人物、死亡、または事務的ミスによるものであり、82%もの誤りがあったことを明らかにしました。ニューマン氏は「他の分野でこれほどの誤りが発見されれば大スキャンダルになるはずだが、人口統計学ではこうした問題がほとんど言及されません」と指摘しています。


◆生物学賞
生物学賞は、フォーダイス・エリー氏とウィリアム・E・ピーターセン氏の「牛がいつ、どのように乳を噴出するかを調べるために、牛の背中にいる猫の横で紙袋を爆発させる実験」に対して贈られました。


受賞対象の研究は80年以上も前に行われたものということで、受賞者であるエリー氏とピーターセン氏はすでに故人。そのため、授賞式ではエリー氏とピーターセン氏らの娘と孫が代わりにスピーチを行いました。


この実験は搾乳時に乳を出そうとしない牛と、すぐに乳を出す牛の違いに注目し、乳房からの乳の射出に関わる生理学的プロセスを理解するためのものでした。実験はきわめて独創的なもので、牛の背中に猫を乗せ、牛に搾乳機を取り付ける際に、猫の横で紙袋を破裂させるというものでした。しかし、紙袋の音だけで十分な効果があったため、後に猫は不要とされました。


研究の結果、乳を出す行為は、血中のオキシトシンによる乳腺内の圧力が高まる条件反射として説明できると結論付けられました。この条件反射により、乳腺胞と乳管の筋肉が収縮し、乳が放出されるとエリー氏らは論じています。また、乳を出さない場合は血中のアドレナリンが筋肉の収縮を妨げ、乳腺内の圧力が高まるのを防いでいることがわかりました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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