人を笑わせ、そして考えさせる「イグノーベル賞」の2020年度受賞研究が発表、日本人は14年度連続受賞
「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して贈られるノーベル賞のパロディである「イグノーベル賞」の2020年度受賞研究が発表されました。2020年度は京都大学霊長類研究所の西村剛准教授が「ヘリウムを吸ったワニの鳴き声はどう変わるのか」という研究によって「音響学賞」を受賞しており、日本人の受賞は14年連続となりました。
The 2020 Ig Nobel Prize Winners
https://www.improbable.com/ig-about/winners/#ig2020
2020 Ig Nobel Prizes
https://cen.acs.org/people/awards/2020-Ig-Nobel-Prizes/98/i36
Here are the winners of the 2020 Ig Nobel Prizes to make you laugh, then think | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/09/bellowing-alligators-and-frozen-poop-knives-the-2020-ig-nobel-prizes/
イグノーベル賞は、一般の人々の注目を集めて科学の面白さを再認識させられるという目的のもと、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」や風変わりな研究、社会的事件などを起こした個人やグループに対して贈られる賞です。科学研究以外にも、カラオケやたまごっち、バウリンガルなどの商品に対しても賞が贈られることもあります。
2020年度の授賞式は、日本時間2020年9月18日の午前7時からイグノーベル賞史上初となるオンライン形式で実施。日本語版の公式ライブストリーミングは、ニコニコ生放送で行われました。以下のURLから2020年度イグノーベル賞授賞式をタイムシフト視聴することができます。
イグノーベル賞2020 授賞式 日本語版公式ライブストリーミング - 2020/09/18(金) 07:00開始 - ニコニコ生放送
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327959123
日本語版公式ライブストリーミングは日本語字幕あり。2020年度はプレゼンターとして、エリック・マスキン教授(2007年度ノーベル経済学賞受賞)、フランシス・アーノルド教授(2018年度ノーベル化学賞受賞)、リチャード・ロバーツ教授(1993年度ノーベル生理学・医学賞受賞)、マーティン・チャルフィー教授(2008年度ノーベル化学賞受賞)、ジェローム・アイザック・フリードマン教授(1990年度ノーベル物理学賞受賞)、アンドレ・ガイム教授(2010年度ノーベル物理学賞受賞)ら本家ノーベル賞受賞者が登場しました。
そんな2020年度のイグノーベル賞受賞研究が以下。
◆音響学賞:「ヘリウムを吸ったワニの鳴き声はどう変わるのか」
音響学賞に輝いたのは、京都大霊長類研究所の西村剛准教授が所属するオーストリア・日本・アメリカの合同チーム。研究チームは、中国で絶滅が危惧されているワニのヨウスコウアリゲーターが声を出すメカニズムを調査するため、ヘリウムを注入した水槽内でメスの鳴き声を録音しました。
著者らは、ヘリウムを吸った場合には鳴き声が高く聞こえたことなどから、「ヨウスコウアリゲーターは体の中で共鳴を起こして声を出すという、人間と同じ発声メカニズムを有している」と結論付けています。
◆心理学賞:「ナルシストを眉毛から判別する方法」
心理学においてはナルシシズムは利己主義、自己中心主義、虚栄心などを特徴とする「悪い」性格だとされています。そんなナルシストを顔立ちから見分けようというのが今回の研究。トロント大学のミランダ・ジャコミン氏らは、同大学の学部生39人を対象に、「自然な表情をしてから撮影された被験者自身の写真を見て、その表情の『ナルシスト度』を採点してもらう」という調査を行いました。この調査によって、著者らはナルシストだという判断は主に「眉毛」に依存していると結論付けました。
著者らは、「特に整った眉毛をしている人に気をつけるべき」と記しています。
◆平和賞:「真夜中にピンポンダッシュするという嫌がらせの応酬を繰り広げたインド・パキスタンの外交官」
カシミール地方の領有権などを巡ってインド・パキスタンは長きにわたって対立しています。そんな両国の外交官は水面下で「嫌がらせ合戦」を行っており、尾行や卑猥なイタズラ電話に加えて「ピンポンダッシュ」を繰り返しているとのこと。2020年度のイグノーベル平和賞は、両国の政府を代表する外交官たちが小学生のように振る舞ったことに対して贈られました。
◆物理学賞:「高周波にさらされた時、生きているミミズの形態がどのように変化するか」
オーストラリアのスウィンバーン工科大学のイワン・S・マクシモフ氏らは、「生物のほとんどは液体でできており、液滴に近しい振る舞いをする」という考察のもと、柔軟性のある皮膚と液体で満たされた体腔を有するミミズを使って、ミミズの体表上で「ファラデー波」が生じるかを調査しました。なお、ファラデー波とは水を入れた容器を鉛直方向に一定の振動数で動かすと、水面に定常波のパターンが出現するという現象です。
調査の結果、マクシモフ氏らはミミズを「流体で満たされた弾性円筒形の殻」としてモデル化することに成功。本研究結果が「神経インパルスの伝播のような、生物物理学的プロセスを制御するために役立つ」と主張しました。
なお、論文には「ミミズに大きな振動を与えると粘着性の液体を放出するため、避けるべき」という一文が記されています。
◆経済学賞:「国家間の国民所得差とマウス・トゥー・マウスのキスの平均量における関係性」
2020年度のイグノーベル経済学賞は、キスがカップルの絆の長期的な維持に有効であることを示すために、「ロマンチックなマウス・トゥー・マウスのキス」の文化を調査したスコットランドやコロンビア、フランスなどの多国籍チームに贈られました。研究チームは世界中から3109人の参加者を募って、キスの頻度などを調査し、「平均所得が低い国ではキスの頻度が高くなる」という傾向を立証しました。研究チームは、「ある種の過酷な環境下において、長期的に安定したカップルの絆を維持するためにキスが重要な役割を果たしている可能性がある」と述べています。
◆経営学賞:「殺し屋の多重下請け」
経営学賞は中国で「暗殺の多重下請け」を引き起こした殺し屋5名が受賞。元請けの殺し屋は暗殺を200万元(約3100万円)で受注しながらも、一部をピンハネして下請けに発注。同様の現象が繰り返された結果、末端の殺し屋が受け取った報酬はわずか10万元(約150万円)に。さらに末端の殺し屋は暗殺に見事失敗し、依頼者を含めて全員が逮捕されるという結末を迎えました。
「雇った殺し屋が下請けを雇う」ということが繰り返されて「5次請けの殺し屋」が誕生してしまう - GIGAZINE
◆材料科学賞:「『凍った人糞のナイフで肉を切っていた』というイヌイットの伝説の実証」
「氷雪地帯に住む先住民族のイヌイットは、自分のうんちでナイフを作り、肉を切っていた」という伝承が長年未検証のまま漠然と信じられてきたことを受けて、ウェイド・デイビス氏ら人類学者は実際に「凍った人糞からナイフを作る」という実験を敢行。人糞製のナイフが使い物にならないことを立証し、2020年度の材料科学賞を受賞しました。
「凍った人糞のナイフで肉を切っていた」というイヌイットの伝説を実際に人類学者が検証 - GIGAZINE
◆昆虫学賞:「多くの昆虫学者が昆虫と定義されないクモを恐れているという証拠について」
「昆虫」とは、六脚亜門の昆虫綱に分類される節足動物の総称のことで、昆虫であるならば足は6本です。この定義に従うと、8本の足を持つクモは昆虫ではないといえます。リチャード・S・ベッター氏によると、昆虫の専門家である昆虫学者は、クモに対して昆虫とは異なる反応を示すとのこと。
◆医学賞:「他人の咀嚼(そしゃく)音を聞くと苦痛を感じるという病状の診断」
「ミソフォニア(音嫌悪症)」は特定の音に対して否定的な感情が引き起こされるという医学的な障害です。オランダの研究者らは、ミソフォニアを発症した42人の被験者が参加した実験によって、咀嚼音が否定的な感情を呼び起こすことを実証しました。
◆医療教育賞:「政治家は科学者や医師よりも生死に多大な影響を与えられることの実証」
2020年に世界中で大流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、「政治家は科学者や医師よりも生と死に直接的な影響を与える」という事実を世界中に教えたとして、ブラジルのボルソナーロ大統領、イギリスのジョンソン大統領、インドのモディ首相、メキシコのオブラドール大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領、アメリカのトランプ大統領、トルコのエルドアン大統領、ロシアのプーチン大統領、トルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領が2020年度の医療教育賞を受賞しました。
なお、ルカシェンコ大統領は「片腕の男を拍手罪で逮捕した」という2013年度の平和賞に続く、2度目の受賞となります。
以上の受賞者には、名声に加えて10兆ジンバブエドル(2009年以降使用不可、価値最低時のレートで約4円)が贈られました。
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