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ノーベル賞受賞者の研究の暗黒面

by Michael

ノーベル賞は「人類のために最大たる貢献をした」人々に送られるものですが、当時は「素晴らしい」と称賛された研究でも数十年たつと「おぞましい」と考えられるようになるものもあります。ノーベル賞の「ダークサイド」とも呼べる、現在は当時と評価が真逆になっている研究についてNDTV.comがまとめています。

The Dark Side of Nobel Prizewinning Research
http://www.ndtv.com/world-news/the-dark-side-of-nobel-prizewinning-research-1225911

2013年のノーベル平和賞は、化学兵器の禁止と拡散防止のための世界的な活動を目的とする化学兵器禁止機関が受賞しましたが、皮肉なことに化学兵器禁止機関が作られるに至った原因の一つは、ノーベル賞を受賞したある研究にありました。

アンモニア合成法を使って肥料を開発したフリッツ・ハーバーがノーベル化学賞を受賞したのは1918年のこと。農業の発展に大きく貢献する画期的な研究を行ったハーバーでしたが、一方で、第一次世界大戦で使用された有毒ガスの開発にも熱心でした。ハーバーの開発した有毒ガスは、高濃度なら人を死に至らしめ、低濃度でも人を呼吸困難に陥れ長期間苦しめるという非人道的なもの。実際に、ドイツ軍は有毒ガスを使用してフランス軍を局地的な壊滅状態に陥れることに成功しました。

by Nationalmuseet - National Museum of Denmark

当時のハーバーは有毒ガスを開発したとして戦争犯罪人のリストに載っていたとうわさされており、死刑の判決が下るだろうと考えられていたとのこと。そんな中で発表されたハーバーの受賞に関しては各国から批判が噴出し、「ドイツびいきである」という見方もされました。しかし、最終的にハーバーは死刑になることなく、ノーベル賞を受賞した後も研究で成果を上げ続けました。

ハーバーと同じく有毒ガスを開発した化学者のヴィクトル・グリニャールもノーベル化学賞を受賞しましたが、グリニャールの受賞は大戦前の1912年のことなので、少し話は異なります。ハーバーが農業において革命的な肥料を開発したのは確かですが、一方で、有毒ガスが世界に与えた影響を鑑みると、ハーバーがノーベル賞に適していたと言うのは難しいところです。

しかし、ハーバーの受賞をとりまく論争により、ノーベル賞の審査員たちが戦後の受賞者選定が慎重になったのは確か。1945年、広島と長崎に原爆が落とされた3カ月後に発表されたノーベル化学賞を受賞したのは原子核分裂を発見したオットー・ハーンでした。

一見するとハーンは原爆投下に力を貸しており、有毒ガス開発に熱心だったハーバーと同じような立場にも見えますが、ハーンらドイツ人化学者たちは核分離の原理を開発しただけで、核兵器開発には反対していたのがハーバーと大きく違う点。実際のところ、ハーンら化学者は第二次世界大戦では連合軍捕虜としてイギリスに拘留されており、原爆投下後のすさまじさを聞いて「我々ドイツ人が核兵器の開発に成功しなかったことに感謝しよう」と語っていたとのこと。

またノーベル賞の公的文書では、「1940年の時点でスウェーデン・アカデミーはハーンに賞を与えたかった」ということが明かされており、事実、1944年には同業者の中で「ハーンは隠れたノーベル賞受賞者だ」と言われていました。政治的な理由から戦争が終わった1945年に賞が与えられましたが、実際のところハーンが受賞したのは1944年のノーベル賞だったわけです。


また、ノーベル生理学・医学賞で物議をかもしたのはロボトミーを考案したポルトガルの医師、エガス・モニス。ロボトミーとは前頭葉を切除することで精神疾患を根本的に治療する治療法で、当時は画期的だと考えられていましたが、患者の人間性を著しく奪うという副作用のため、現在では悪評高い手術として知られています。なお、モニスは65歳の時に自分の患者に銃撃されて脊髄を損傷し、身体障害者に。アメリカでは現在でもロボトミー手術で廃人になってしまった当事者・家族たちにより、モニスのノーベル賞取り消しのための運動が行われており、ノーベル財団のウェブサイトではモニスの功績について「論争がある」と注記されているとのこと。

by the BunnyMan

この他、パウル・ヘルマン・ミュラーDDT(農薬)を開発して1948年にノーベル生理学・医学賞を受賞したものの、のちにDDTが環境や人間に悪影響を与えるとして世界的に規制されることなったという歴史もあります。1970年にはノーマン・ボーローグが小麦等の高収量品種を中心とした新しい農業技術を開発し穀物の大幅な増産を指導したとしてノーベル平和賞を受賞していますが、ノーベル賞を受賞し称賛された功績が将来的に覆る可能性は、いつでも残されているわけです。

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in メモ, Posted by logq_fa