サイエンス

マウスは意識を失った仲間を助けようとしてかみついたり舌を引っ張り出したりする


もし意識を失った人に遭遇した場合、応急手当の心得を持っている人であれば、人工呼吸や心臓マッサージを行って救助を試みることができます。新たな研究では、マウスも意識を失った仲間を見つけるとかみついたり、舌を引っ張り出したりして助けようとすることが確認されました。

Reviving-like prosocial behavior in response to unconscious or dead conspecifics in rodents | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq2677

Lab mice may give 'first aid' to unconscious mates : NPR
https://www.npr.org/2025/02/21/nx-s1-5305006/lab-mice-may-give-first-aid-to-unconscious-mates

Incredible Discovery Shows Mice Trying to Revive Fallen Companions : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/incredible-discovery-shows-mice-trying-to-revive-fallen-companions

アメリカの南カリフォルニア大学で生理学・生物物理学の教授を務めるリー・チャン氏らの研究チームはある時、麻酔をかけたマウスを他のマウスがいるケージの中に戻すと、仲間のマウスが意識を失ったマウスの顔の周囲を嗅いだり、かみついたりすることに気が付きました。チャン氏にはその様子が、まるでマウスが応急処置をして意識を失った仲間を助けようとしているように見えたとのこと。

仲間を助けようとする行動は、すでにゾウやイルカなどの哺乳類でも観察されており、他のマウス研究者も同様の行為に気付いていたものの、これまで綿密に研究されたことはありませんでした。そこでチャン氏らの研究チームは、意識を失ったマウスと他のマウスを同じケージに入れ、どのような反応を示すのかを調査することにしました。


以下の動画を見ると、マウスが意識不明の仲間に対してどのような反応を示したのかがよくわかります。

Mice seen giving 'first aid' to unconscious companions - YouTube


意識を失ったマウスが、ケージの中であお向けになっています。


それに気付いた別のマウスが、近寄って匂いを嗅いだり、体や手に触ったりし始めました。


やがて、意識のないマウスの口を無理やりこじ開けるように開き、そこに自分の口を近づけます。


マウスの舌を口で挟み、ぐいっと引っ張り出しました。マウスは意識不明の仲間への対応にかなり多くの時間を費やし、その行動は時間と共にエスカレートしていきました。実験全体の50%で意識のないマウスから舌が引っ張り出されたほか、80%で口の中に入った物体が取り除かれました。舌を引っ張り出されたマウスは、処置を受けなかったマウスと比較して、麻酔から回復して歩き始めるのがかなり早くなったとのこと。


意識のないマウスの舌を引っ張る行為には、口の中にある呼吸を邪魔する物体を取り除いたり、気道を拡張して呼吸を確保したりするメリットがあると考えられます。また、別の研究では、マウスの舌が引っ張られると舌と脳をつなぐ神経回路が刺激され、麻酔からの覚醒が促進されることも報告されています。

当然ながら、マウスは実験前に応急手当の訓練などを受けていなかったため、一連の行動は本能的なものであることが示されています。しかし、5日間連続で同じ実験をしても、マウスは意識のない仲間の手当を続けたことから、一連の行動は単なる好奇心に基づいたものではない可能性が高いとのこと。

また、見知らぬマウスよりも身近なマウスの方が手当をする可能性がはるかに高かったことから、マウスの行動は状況に応じた単純な反射ではなく、個体の属性を考慮に入れたものであることが示唆されています。論文の共著者である南カリフォルニア大学のウィジョン・タオ氏は、「マウスはこの一連の動作を、意図的に行うことができるようです。このような緊急時の反応が動物から報告されたのは、今回が初めてです」とコメントしました。

今回の研究では、救助活動を行うマウスの脳を観察したところ、視床の一部である視床室傍核(paraventricular nucleus)におけるオキシトシンの分泌が増加することもわかりました。オキシトシンはさまざまな助け合いの行動に関与していることから、ここでも同様のメカニズムが働いている可能性があるとのことです。

さらに、同じテーマの別の論文では、意識のないマウスを助ける行動は性別にかかわらず観察されることや、意識のないマウスには体ではなく顔周辺にグルーミングする傾向があること、意識のないマウスを見ると内側扁桃体(Medial amygdala)と呼ばれる部位が活性化することなどが示されました。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by log1h_ik

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