サイエンス

アリはケガをした仲間の命を救うため脚の「切断手術」を行うことが判明


人間は病気やケガを治療するために高度な手術を行い、時には悪くなった部位を切断して命を助けることもあります。新たに国際的な研究チームが、アメリカのフロリダ州に広く分布するCamponotus floridanus(フロリダカーペンターアリ)が仲間を感染症から守るため、ケガをした脚の「切断手術」を行うことを発見しました。

Wound-dependent leg amputations to combat infections in an ant society: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(24)00805-4


An ant that selectively amputates the infecte | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1049744

Ants perform life saving operations — the only animal other than humans known to do so | Live Science
https://www.livescience.com/animals/insects/ants-perform-life-saving-operations-the-only-animal-other-than-humans-known-to-do-so

ケガはアリを含む動物に重大な感染症リスクをもたらし、放置すると感染症で死亡してしまう可能性があります。ドイツ・ヴュルツブルク大学の行動生態学者であるエリック・フランク氏は2023年の研究で、アフリカに分布するMegaponera analisというアリが病原菌に感染した仲間を助けるため、特殊な腺から分泌される抗菌物質で治療することを発見しました。

これに続きフランク氏らの研究チームは、抗菌物質の分泌腺を持たないフロリダカーペンターアリがコロニーの仲間をどう助けるのかを調べました。実験では、「腿節(たいせつ:太ももに相当する部位)に傷を負ったアリ」と「脛節(けいせつ:すねに相当する部位)に傷を負ったアリ」を用意し、仲間がどのように治療するのかを観察したとのこと。

実験の結果、腿節をケガしたアリに対しては傷を口器できれいにした後、脚を繰り返しかんで切断する「手術」を行う様子が観察されました。一方、脛節をケガしたアリ」に対しては切断手術が行われず、傷をきれいにするだけの治療が行われました。

仲間を治療するアリの様子が以下。

by Danny Buffat

研究チームは、これらの治療が傷を負ったアリの生存率を大幅に上昇させることも確認しました。腿節をケガしたアリの場合、治療しなかった場合の生存率は40%未満でしたが、切断手術によって生存率は90~95%まで改善されました。一方、脛節をケガしたアリを放置した場合の生存率は15%程度でしたが、傷を洗浄することによって75%まで生存率が向上したとのことです。

フロリダカーペンターアリが腿節をケガした仲間には患部の切断手術を施す一方、脛節をケガした仲間は傷口の洗浄だけで済ませる理由について、研究チームは「切断手術にかかる時間」が影響していると考えています。


研究チームがフロリダカーペンターアリのマイクロCTスキャンを行ったところ、腿節の大部分は筋肉組織で構成されており、脚から本体に血液(血リンパ液)を送り出す機能的な役割を持っていることがわかりました。つまり、腿節を損傷すると筋肉が損なわれ、血リンパ液を送り出す能力が低下するため、病原菌を含む血リンパ液が循環するスピードが遅くなるというわけです。一方、脛節には筋肉組織がほとんどないため、ケガをしても血リンパ液を送り出す能力は損なわれません。つまり、傷口から入ってきた病原菌がすぐに血リンパ液に乗って、体内を循環しやすいといえます。

アリが仲間の脚をかんで切断するには少なくとも40分かかるため、傷口から侵入した病原菌が血リンパ液に乗って体内を循環するスピードが速すぎると、切断手術をしても間に合いません。そのため、腿節をケガして病原菌の循環速度が低下したアリには切断手術を施し、脛節をケガして病原菌の循環速度が変わらないアリには傷口の洗浄を行っていると研究チームは考えています。


フランク氏は、「切断行動についていえば、これは文字通り動物界で他の個体による高度で洗練された切断が行われる唯一のケースです」「アリが傷口を診断し、感染しているか無菌であるかを確認し、それに応じて他の個体が長期間にわたり治療できるという事実があります。これに匹敵する唯一の医療システムは人間のものでしょう」とコメントしました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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