視覚や読み書きが不自由な子どもに配慮したユニバーサルデザインデジタル教科書体は音読や読解を改善するのか？

日本のフォントメーカーであるフォントタイプが開発した日本語フォントの「ユニバーサルデザインデジタル教科書体(UDデジタル教科書体)」は、全盲ではないものの視機能に問題があるロービジョン(弱視)や、文字の読み書きに著しい困難を抱えるディスレクシア(読み書き障害)の子どもに配慮したフォントです。そんなUDデジタル教科書体は実際にディスレクシアを持つ子どもにとって読みやすいのかどうかを調べた研究結果が、学術誌の音声言語医学で発表されています。

ユニバーサルデザインデジタル教科書体が発達性読み書き障害児群の音読の正確性，流暢性および読解力に与える影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/64/2/64_105/_article/-char/ja/

2016年に発表されたUDデジタル教科書体は、ロービジョンやディスレクシアの子どもにとって読みやすく、かつ手書きする時の動きや形がわかりやすいフォントとして設計されました。

UDデジタル教科書体は既存の教科書体の字形に合わせ、書き順や書く方向などがわかりやすいような筆運びの形状を保ちつつ、線の太さの強弱を抑えたデザインとなっています。また、他のフォントにみられるような起筆部分の装飾をなくしたり、濁点や半濁点を大きくしたり、線の間を広く取って文字の区別が付きやすくしたりと、さまざまな工夫が凝らされています。

上が中学校の教科書や大学入学共通テストなどで使われる明朝体、下がUDデジタル教科書体です。見比べると、UDデジタル教科書体は可能な限り線の太さが統一されており、はらいやとめ、細かい装飾といったものがそぎ落とされているのがわかります。

2023年の音声言語医学で発表された「ユニバーサルデザインデジタル教科書体が発達性読み書き障害児群の音読の正確性、流暢性および読解力に与える影響」という論文では、小学4年生から中学3年生までの発達性読み書き障害を持つ子ども24人と典型発達の子ども24人を対象にして、UDデジタル教科書体が音読や読解に及ぼす影響を調査した結果が報告されました。

実験では、UDデジタル教科書体と一般的な教科書体の2種類を用いて作成した音読課題と文章読解課題を行わせて、子どもたちがどれほど正しく音読あるいは解答できたのかを分析しました。また、子どもにとってどれほど文字が読みやすいと感じたのかについてもアンケートを実施しました。

実験の結果、音読課題における所要時間や誤読数、自分で間違いに気付いた数、読解課題の正答数といった項目において、2つのフォントの間で有意な差はみられませんでした。つまり、読み書きに困難を抱えている子どもたちにおいて、UDデジタル教科書体と通常の教科書体で正答率に客観的な差は確認されなかったというわけです。

一方、文字の読みやすさについてのアンケートでは、読み書きに困難を抱えている子どもとそうでない子どもの両方が、「UDデジタル教科書体の方が正しく読みやすい」と回答しました。これは、主観的にはUDデジタル教科書体の方が好まれやすいことを示唆しています。

この研究結果ははてなブックマークでも話題となっており、ディスレクシアの子どもを持つというあるユーザーは、学校で配られるプリントにはUDデジタル教科書体が用いられているが有意差はみられないとして、「フォントより活字の大きさの方が重要」と語っていました。

[B! デザイン] ユニバーサルデザインデジタル教科書体が発達性読み書き障害児群の音読の正確性，流暢性および読解力に与える影響
https://b.hatena.ne.jp/entry/s/www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/64/2/64_105/_article/-char/ja/