サイエンス

人々の心を惑わせる「ギャンブラーの誤謬」と「ホットハンドの誤謬」とは?


この世界は「明日の株価は上昇するのか、それとも下落するのか」「PKでボールが左に蹴られるのか、それとも右に蹴られるのか」「長年買い続けた宝くじがついに当たるのか、それともまた外れるのか」といったランダムなイベントであふれています。これらのイベントを観察したり、経験したりする人々の脳を惑わせる「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」と「ホットハンドの誤謬」という2つの誤謬について、オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ大学で上級講師を務めるミラード・ハガーニ氏が解説しました。

The ‘hot hand’ and the gambler’s fallacy: why our brains struggle to believe in randomness
https://theconversation.com/the-hot-hand-and-the-gamblers-fallacy-why-our-brains-struggle-to-believe-in-randomness-246244


人々が日常生活で遭遇するさまざまな出来事はそれぞれ独立したものであり、相互に関連してはいません。しかし、人々はこれらの出来事を「人生の流れにおける一部」として経験しており、脳はその中に確実性やパターンを読み取ろうとしてしまいます。つまり、人間の脳はランダムに起きている出来事の背後に、実際には存在しないパターンを見いだそうとしがちだというわけです。

この誤りに陥らないようにするためには、「あるイベントの結果が別のイベントの結果に影響を及ぼすのかどうか」を考え、独立した出来事を別の出来事と関連付けないことが大事です。こうした出来事の独立性を理解できていない人は、「ギャンブラーの誤謬」や「ホットハンドの誤謬」といった誤った考えに陥り安いとのこと。そこでハガーニ氏は、これらの誤謬について詳しく解説しています。


◆ギャンブラーの誤謬
1913年8月18日、モナコ公国にあるモンテカルロカジノで、歴史上最も異常ともいわれる現象が発生しました。なんと「カジノのルーレットで『黒』が出る」という事態が連続して10回以上も発生したのです。これを見た多くのギャンブラーは「そろそろ赤が出るだろう」と考えて「赤」にチップを賭けましたが、それでもなお黒が出続けて、20回目のスピンではルーレットのテーブルが「赤」に賭けるギャンブラーで一杯になったとのこと。

しかし、結局ルーレットは26回も連続で「黒」を出し続け、27回目のスピンでようやく「赤」が出ましたが、その頃には多くのギャンブラーが大金を失っていました。これは、「過去の独立した出来事が未来の独立した出来事の結果に影響を及ぼすと考える」という誤謬を指す、「ギャンブラーの誤謬」と呼ばれる現象を説明する際の教科書的な事例といえます。


このケースでは、ギャンブラーたちは「これまで飽きるほど黒が出たのだから、そろそろ赤が出るだろう」と考えましたが、実際のところルーレットはそれぞれのスピンが独立した試行であるため、次の試行で赤・黒・緑のそれぞれが出る確率は毎回同じです。つまり、これまで何回連続で黒が出ていようが、次に赤が出る確率は変わりません。しかし、人々はこれらの試行がランダムであることを理解できず、「これまで連続で黒が出た」という事実から、「そろそろ赤が出る」という誤った考えを持ってしまいがちです。

これと同じような考え方は、ギャンブル以外の場所でも多々見られます。たとえば、宝くじである番号がずっと出ていなかったら「そろそろこの番号が当たるのではないか」と思ったり、男の子を出産することが続いたら「そろそろ女の子が生まれるのではないか」と考えたりするかもしれません。実際、ワールドカップやヨーロピアンカップにおける37回のPK戦を分析した研究では、ゴールキーパーは3回連続で同じ再度にボールが蹴り込まれた後、4回目はそれと逆方向に飛ぶという結果が示されています。つまり、次のPKがどちらに蹴られるのかは実際のところ不明であるにもかかわらず、ゴールキーパーは「そろそろ逆方向にシュートが来るだろう」と考えがちだというわけです。なお、キッカーはこのゴールキーパーの傾向を予測できておらず、シュートを蹴る方向の割合は変わらなかったとのこと。


◆ホットハンドの誤謬(ホットハンド現象)
中には、連続した試行が完全に独立したランダムな出来事とは言いにくく、以前の結果が将来の結果に影響を及ぼしている可能性が高いケースもあります。たとえば、バスケットボールの試合で何度もシュートを決めた選手に対し、「次のシュートも決めてくれるだろう」と期待するのは自然なことです。バスケットボールではシュートを連続して決めている選手を「ホットハンド」というため、一度シュートを決めた選手がいい流れを維持することは「ホットハンド現象」と呼ばれています。

しかし、実際にホットハンド現象が存在するのか、単にランダムな出来事が偏って生じたパターンにすぎないのかについては議論が続けられています。ホットハンド現象が単なる錯覚だったケースは「ホットハンドの誤謬」とも呼びますが、人間の状態が関係しないルーレットとは異なり、スポーツにおいては選手の心理状態が関係するため、選手のスキルや自信、勢いといったものが結果に影響を及ぼしている可能性があります。

これまでにもホットハンド現象について調べた研究は複数ありますが、その結果まちまちであり、文脈に依存しています。一部の研究では野球ダーツテニスを含むいくつかのスポーツで軽度の影響が観察されているものの、多くの選手やコーチ、ファンが信じているほど強くはないことが示唆されています。


人々がギャンブラーの誤謬やホットハンドの誤謬に陥りがちなのは、人間の脳は意思決定のためにパターンやトレンドを見つけ出そうとする一方、人間が観察できるイベントの数には限りがあるためです。全体的なパターンを知るには多くのイベントを観察し、結果を記録する必要がありますが、現実世界でこれらを達成することは困難なため、少ないイベントから実際には存在しない傾向や流れを読み取ってしまうとのこと。

しかし、イベントは常に独立しているというわけではなく、時にはスキルや自信、時代の流れといったものに影響され、成功や失敗が連続することもあります。この場合、過去の結果が将来的な成功や失敗を予測する鍵となります。

ハガーニ氏は、「今後はいいことであれ悪いことであれ、連続した出来事に遭遇したら立ち止まって考えてみましょう。出来事につながりがあると信じる理由がないのなら、過度に解釈したい衝動に駆られないでください。ランダム性を理解することで、不必要な心配や誤った希望から解放されて、地に足の着いた決断に集中できるようになります」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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