サイエンス

多元宇宙理論は間違っているかもしれないと哲学者が語る「逆ギャンブラーの誤謬」理論とは?


多元宇宙理論(マルチバース)とは、私たちが生きる宇宙以外に複数の宇宙が理論上存在しているとする理論物理学の説であり、物理学および哲学・論理学の分野で議論されます。この時、多元宇宙論者が用いる根拠のひとつが「逆ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」にあたる基本的な間違いを含んでいると、哲学者が解説しています。

Many physicists assume we must live in a multiverse – but their basic maths may be wrong
https://theconversation.com/many-physicists-assume-we-must-live-in-a-multiverse-but-their-basic-maths-may-be-wrong-216106


私たちが生きる世界の物理学は、生命のために微調整されているように見えることがあります。シドニー大学のジェラント・F・ルイス氏らが出版した「A Fortunate Universe Life in a Finely Tuned Cosmos(幸運な宇宙 精密に調整された宇宙に生きる生命)」という書籍では、この世界の基本定数や物理の基本法則は、ちょっと数値が違っただけで地球上の物語は根本的に異なっていたと考えられ、私たちのような生命は生きられなかったと指摘しています。例えば、宇宙の加速膨張の原動力である仮想上のダークエネルギーは、今よりほんの少し強かったら物質は凝縮できず星や惑星は生まれず、つまり生命は存在しえないことになります。

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物理学が微調整されているように見えることの説明として一般的に用いられるのが多元宇宙理論です。私たちはいくつもの宇宙が存在する中のひとつに住んでおり、ほかのいくつもの宇宙には物理学の数値が違うものもあると多元宇宙論者は考えます。そのような宇宙では生命は誕生していませんが、たまたま生命誕生に適した形にあらゆる数値が一致した宇宙が低確率で誕生し、それが私たちの宇宙であるという考え方です。

多元宇宙理論は物理学が微調整されていることへのもっともらしい説明と考えられていましたが、イギリスのダラム大学の哲学准教授であるフィリップ・ゴフ氏は著書「Why? The Purpose of the Universe」の中で、多元宇宙論者の論理展開は「逆ギャンブラーの誤謬を犯している」と指摘しています。



ギャンブラーの誤謬」とは、例えばコイントスをして3回連続で表が出た場合に、「表と裏はどちらも2分の1だから、3連続で表に偏っているなら、次は裏が出やすいだろう」と考えるようなことを言います。観察される結果は常に独立した確率過程のため、それまでの確率は何ら関係ないはずが、一連の記憶が確率の計算を誤らせるというものです。

このギャンブラーの誤謬に関連して哲学者のイアン・ハッキング氏が名付けた「逆ギャンブラーの誤謬」は、文字どおりギャンブラーの誤謬を逆に考えたもの。コイントスを3回して連続で裏が出た時に、「確率は表と裏が同じ回数でるように収束するため、今裏が3回出たということは、これまでに何回もコイントスをして表を連続で出した人がいるはずだ」と考えるのが逆ギャンブラーの誤謬です。ランダムなプロセスの珍しい結果が出たときに、その珍しい結果が出るほど試行したのだという考えのことを指します。

ギャンブラーの誤謬も逆ギャンブラーの誤謬も、「確率は収束する」という考えに基づいています。しかし、小さい確率はあくまで「起こりにくい」というだけで、起こることが異常なことではなく、また前後の行動や結果とは関係なく常に特定の確率は一定です。


ゴフ氏は、多元宇宙論者の「私たちの宇宙は生命にふさわしい数字に満たされている。これは確率的にあり得ないことなので、数字が適切にそろわなかった他の宇宙もたくさんあるに違いない」という主張が逆ギャンブラーの誤謬に陥っていると主張しています。

科学的な有力説では、宇宙を支配する物理学的な数値はビッグバン以来ずっと一定のままです。この場合、「私たちの宇宙が偶然生命に適した数字を持っているのは、信じられないような偶然である」あるいは「自然が何らかの目に見えない内在する原理によって、生命を発達させるよう駆り立てられた結果の数値である」という2通りの考え方ができます。ゴフ氏は、偶然と片付けるのはあまりにも難しいとして、「宇宙の目的」についての理論を著書で提示し、それが人間の意味と目的に及ぼす影響について論じています。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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