サイエンス

物理学者がパスタ料理の「科学的に完璧なレシピ」を発表


イタリアの名物パスタ料理として知られるカチョエペペを確実においしく作るためのレシピを、マックス・プランク複雑系物理学研究所の物理学者がバルセロナ大学とオーストリア科学技術研究所の研究員と共同研究し、未査読論文リポジトリのarXivに発表しました。

[2501.00536] Phase behavior of Cacio and Pepe sauce
https://arxiv.org/abs/2501.00536

Physicists develop the 'perfect' recipe for a well-known Italian pasta dish
https://phys.org/news/2025-01-physicists-recipe-italian-pasta-dish.html

カチョエペペはイタリアの首都ローマの名物パスタ料理で、その名前が「チーズと胡椒(こしょう)」を意味する通り、茹(ゆ)で上げたスパゲッティにペコリーノ・ロマーノというチーズをからませ、コショウをたっぷりかけた料理です。マックス・プランク複雑系物理学研究所の研究チームは、カチョエペペの完璧なレシピを解明するために、3つのアプローチで研究を進めました。

by Joanne Wan

まず研究チームは、一定量の水とチーズを混合し、水の温度とデンプン濃度を変える実験を行いました。実験では、温度を50℃から95℃まで5℃刻みで変化させ、デンプン濃度は0%の真水、通常のパスタの茹で汁、そしてパスタの茹で汁を3分の1まで煮詰めてデンプンを濃縮した「リゾッタータ」の3段階に調整されました。各サンプルは写真撮影され、チーズの塊のサイズと形状が分析されました。

その結果、デンプンなしの0%の場合、65℃付近で急激にチーズの大きな固まりが発生することがわかりました。そして、通常のパスタの茹で汁でもチーズの固まりが発生するものの、70℃までは安定性が保たれ、固まりのサイズも小さくなりました。さらに、リゾッタータの場合は95℃という高温でもチーズは比較的安定を保ち、固まりの形成も抑制されることが判明しました。


次に研究チームは、チーズのタンパク質濃度がソースの状態に与える影響を調査するため、デンプン濃度を1%に固定した上で、水とチーズの比率や温度を変えながら実験を行いました。

その結果、チーズと水の質量比率によって、ソースの相挙動が大きく変化することが判明しました。得られたデータから作成された、タンパク質質量分率と温度の関係を示す相図が以下です。この相図では、タンパク質質量分率が約0.134、すなわち水とチーズがほぼ1:1の比率になる付近で最も安定した状態が得られることが示されています。


また、上記の図に描かれる放物線の最低点は約60℃にあることから、この温度を境に水とチーズの挙動が大きく変化することが分かりました。これは、チーズと水の比率が適切であっても、温度が高すぎると相分離が起こり、ソースが分離してしまうことを示しています。

さらに、研究チームはこの現象を理論的に説明するための最小モデルを構築しました。このモデルでは、カゼイン乳清などのチーズに含まれるタンパク質と、デンプンや塩を含んだ水という「実効的な溶媒」を二成分系として扱い、その相互作用を解析しています。

これらの結果から、カチョエペペを作る上でチーズと水を1:1の比率で使用し、約60℃付近で調理することが安定したソースを作るための重要な条件であると研究チームは論じています。また、加える水のデンプン濃度がソースの安定性に決定的な役割を果たし、デンプン濃度が1%未満である場合はソースが分離してしまい、4%を超えると冷めた時にチーズのタンパク質が凝集してソースがかたくなってしまうとのこと。つまり、料理人の経験則で得られた「パスタのゆで汁を加えてやや煮詰めながら弱火でソースを作る」というレシピは科学的にも正しかったというわけです。

研究チームは、デンプンがソースの粘性などに与える影響の詳細な分析や、胡椒の粒が凝集核としての役割を果たす可能性についても、今後の研究課題として挙げています。そして、研究チームはこの研究が「料理への純粋な情熱を科学的な洞察に変換し、複雑な調理プロセスを一般的な台所でも実現可能にする方法を見出した例」として位置づけ、この研究アプローチは他の料理の理解や改良にも応用できる可能性があることを示唆しました。

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in サイエンス,   , Posted by log1i_yk

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