古代ローマの人々も「人間による環境汚染が結果的に健康を害する」ことを知っていた
環境汚染は現代社会にとって大きな問題となっていますが、古代ローマの人々も数千年前から人間が環境を破壊し、それが健康を害していることを理解していました。オーストラリアのメルボルン大学で歴史哲学を研究しているコンスタンティン・パネギレス氏が、「古代世界の人々がどのように環境破壊に取り組んだのか?」について解説しています。
‘The waters become corrupt, the air infected’: here’s how Ancient Greeks and Romans grappled with environmental damage
https://theconversation.com/the-waters-become-corrupt-the-air-infected-heres-how-ancient-greeks-and-romans-grappled-with-environmental-damage-236680
紀元1世紀の政治家であり博物学者でもあったガイウス・プリニウス・セクンドゥス(大プリニウス)は、地理学・天文学・動植物・鉱物など多岐にわたる知識を記した著書「博物誌」の中で、「私たちは川や自然の要素を汚染し、生命の主な支えである空気そのものを、生命を破壊する媒体に変えてしまいます」「万物の親である地球を支援し、その利益を擁護することは、私の第一の喜ばしい義務です」と述べています。つまり、当時から人間が自然を汚染していることは認識されており、その上で自然を保護することの重要性すらも唱えられていたというわけです。
約2000年が経過した現代においても、大プリニウスの言葉は当てはまります。現代社会では環境への懸念がホットな政治的話題のひとつとなっており、オーストラリアの若者約2万人を対象にした2023年の調査では、44%の若者が環境問題を最も重要な課題だと解答しました。
古代ローマの作家たちも、兵士らが野営したキャンプ地周辺の水や空気を汚染したことを記録しています。4世紀頃のローマ帝国の軍事学者であるフラウィウス・ウェゲティウス・レナトゥスは著書の中で、「多数の軍隊が夏や秋に一つの場所に長くとどまると、水は腐敗し、空気は感染し、そこから悪性の致命的な疾病が発生します。これは、頻繁に宿営地を変える以外に防ぐことはできません」と述べています。
また、ローマを流れるテヴェレ川の汚染についてもたびたび語られており、紀元1世紀~2世紀の歴史家であるガイウス・スエトニウス・トランクィッルスは、紀元前27~紀元17年に在位したローマ皇帝のアウグストゥスによる浄化政策が行われる前のテヴェレ川は「ゴミで一杯で、突き出た建物によって狭まっていた」と記しています。
紀元1~2世紀のローマの詩人であるデキムス・ユニウス・ユウェナリスはテヴェレ川を「湧き出る下水道」と形容していたほか、紀元2世紀~3世紀の医師であるガレノスも、テヴェレ川は非常に汚いためそこで捕られた魚は安全に食べられないと主張しています。
古代ギリシャ人やローマ人は、環境への害を防ぐまたは減らすためのさまざまな対策にも取り組みました。たとえば紀元前420年、アテネの人々はイリソス川を保護するための法律を導入し、「動物の毛皮を浸したり、なめしたりすること」「洗濯で出たゴミを投げ捨てること」などを禁じました。実際、法律が施行された後の紀元前4世紀に書かれた本の中では、イリソス川は「純粋で美しい川」と形容されているそうで、この法律がイリソス川の保護に役立った可能性があるとのこと。
また、公共の場所での排せつや排せつ物の廃棄を法律する法律もあったほか、一部の為政者は汚染を防ぐために下水道や水道橋の建設にも着手しました。紀元96~98年に在位したローマ皇帝のネルウァは、ローマをより清潔で健康な都市にするための政策を行ったそうで、ローマの水道橋の管理人であったセクストゥス・ユリウス・フロンティヌスは「街の外観は清潔に変わり、空気はより澄んでいます。かつて街の空気に悪い印象を与えていた不健全な大気の原因も、今では取り除かれています」と述べています。
「環境汚染が健康を害する原因になる」という考えは当時から存在しており、紀元1世紀~2世紀の政治家であるガイウス・プリニウス・カエキリウス・セクンドゥス(小プリニウス)は、ローマ皇帝のトラヤヌスに対し、トルコのアマストリス(現アマスラ)の街を流れる小川の問題を訴える手紙を書いています。
手紙の中で小プリニウスは、小川が下水道のように使われて有害な悪臭を放ち、街の外観と人々の健康を損なっていると主張。これに対してトラヤヌスは、「親愛なるプリニウスよ、アマストリス市を流れるという小川にフタをしないままでは健康を害するのであれば、フタをする理由には十分です」と返信しました。
以上のさまざまなエピソードは、古代ローマの人々が土地・空気・川などの環境問題が、人間の健康と絡み合っていると認識していたことを示しています。パネギレス氏は、「人類が複数の環境危機に取り組む中で、この古くからの知識を振り返る価値があります。要するに、地球を健康な状態に保つことは、環境だけでなく私たち自身にとってもいいことなのです」と述べました。
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