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古代マヤ文明の都市が放棄されたのは「水が毒で汚染されたから」という可能性


メキシコのユカタン半島を中心とした地域で、紀元4世紀から9世紀ごろにかけて繁栄を極めたマヤ文明の遺跡から、水源としていた貯水池が毒物により汚染されていたことを示す証拠が見つかりました。これにより、マヤ文明の都市が崩壊した原因の一端が明らかになると期待されています。

Molecular genetic and geochemical assays reveal severe contamination of drinking water reservoirs at the ancient Maya city of Tikal | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-67044-z

Ancient Maya reservoirs contained toxic pollution: study
https://phys.org/news/2020-06-ancient-maya-reservoirs-toxic-pollution.html

Ancient Maya reservoirs were polluted with toxic mercury, blue-green algae | University Of Cincinnati
https://www.uc.edu/news/articles/2020/06/n20927014.html

現在のグアテマラ北部に位置するペテン盆地には、かつてマヤ文明の政治経済の中心都市だったティカルが存在していましたが、ティカルは9世紀ごろに放棄されたといわれています。ティカルが衰退した理由については、「人口の増加に伴う無理な農業生産が土地を痩せさせたから」などの説が唱えられていますが、はっきりしたことは分かっていません。

そこで化学者、人類学者、地理学者、生物学者、植物学者などから成る研究チームは、ティカルの都市が放棄された理由を明らかにするため、「Palace」「Temple」「Perdido」「Corriental」という4つの大規模な貯水池の堆積物を採取し、分析を行いました。


分析の結果、都市の中心部に位置する貯水池である「Palace」と「Temple」の堆積物から、有毒な化学物質を生み出す2種類のシアノバクテリア(藍藻類)のDNAが見つかりました。論文の共著者であるカリフォルニア大学のケネス・タンカズリー氏は「都市の中心部の水は藻が繁殖していたため、間近で見るとひどい有様だったことでしょう。そのため、誰もその水を飲みたいとは思わなかったはずです」と述べました。

シンシナティ大学の古生物学者であるデビッド・レンツ氏は、「やっかいなことに、今回見つかったシアノバクテリアが生み出す毒性の化学物質は過熱に強いものでした。そのため、特に水かさが減る干ばつの間は、この貯水池の水は煮沸しても飲用にたえなかったと思われます」と話しました。


また、「Palace」や「Temple」の貯水池には、非常に高いレベルの水銀が含まれていたことも分かりました。古代マヤ文明では、建物を色鮮やかな漆喰(しっくい)で塗装していたとされており、顔料には付近の火山から採掘された硫化水銀を含む朱色の鉱物が使用されていました。研究チームは、この顔料に含まれた水銀が風雨に溶けて貯水池に流れ込んだと考えています。

都市の中心部にあった「Palace」と「Temple」の貯水池が毒素と水銀で汚染されていた一方で、「Perdido」や「Corriental」からはシアノバクテリアの痕跡は見つかりませんでした。また、水銀の濃度も有害ではあるものの街の中心部に比べれば毒性レベルは低かったとのことです。そのため、ティカルの住民の大部分は「Perdido」や「Corriental」から飲用や農業用の水を得ていたと考えられています。


しかし、ティカルがあった地域は、大量の雨が降る短い雨期以外はほとんど雨が降らないため、深刻な水不足が発生する時期もあったと考えられています。レンツ氏は、「1年のうち雨が多い一時期は潤っていましたが、それ以外はほとんど雨が降らず乾燥していたため、ティカルの人々は水の確保には苦労したはずです」と述べて、汚染されていない貯水池も干ばつにより底をつきた可能性があることを示唆しました。

論文の共著者であるカリフォルニア大学の地理学者ニコラス・ダニング氏は、「マヤ文明の指導者たちは、雨の神々との特別な関係により水を操ることができるとされていました。そのため、貯水池に水がなみなみとたたえられ、荘厳な宮殿が寺院が水面に映る光景は、彼らの力の強力なシンボルだったことでしょう」と話しました。

しかし、貯水池の水が汚染されて飲めなくなると、人々は「指導者が神々を鎮めるのに失敗した」と考えるようになったとみられています。これに加え、干ばつなどにより水や食料の供給が減ったことにより、都市から人口が流出するようになったと、研究チームは指摘しています。また、街の中心部に住む支配階級の人々は水銀で汚染された水を飲むしかありませんでしたが、水銀の健康被害により指導力が損なわれると、求心力の低下は決定的になりました。

研究チームは論文の中で、「ティカルの衰退は、複数の災いが織り成す複雑なタペストリーです。今回の研究により、水銀、有機汚染物質などの要因が新たに示されたことで、干ばつと環境の悪化を衰退の原因とする仮説がより強く裏付けられています」と述べました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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