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世界遺産のタージ・マハルが消えてなくなってしまう可能性大、保全のために戦う人々の物語

by wiganparky0

インドのアーグラという都市にある大理石の真っ白な霊廟(れいびょう)「タージ・マハル」は、多くの観光客が訪れる遺跡です。しかし、アーグラ周辺の空気汚染・水質汚染やその他もろもろの問題によってタージ・マハルが存続の危機にあると懸念されています。

Twilight of the Taj - BBC News
https://www.bbc.co.uk/news/resources/idt-sh/twilight_of_the_taj


タージ・マハルはムガル帝国第5代皇帝のシャー・ジャハーンが、1631年に死去した愛妃ムムターズ・マハルのため建設した霊廟で、1643年に完成しました。大理石でできたタージ・マハルは、早朝にはピンク色、午後には白、夜には乳白色に見えるという独特の色彩を有しています。詩人のラビンドラナート・タゴールはタージ・マハルの美しさを「時間という頬につたう大理石の涙」だと表現したほか、世界各国から観光客が訪れ、故ダイアナ妃が写真撮影を行ったこともありました。

インドの観光・文化庁によると、2011年から2015年までの5年間で400~600万人もの人々が訪れたというタージマハルですが、近年はその輝きを失っているとのこと。基礎が弱くなり、建物には亀裂が入り、2018年4月には門の尖塔(せんとう)2本が暴風で倒壊したと報じられました。

タージマハルの門、暴風で損傷 尖塔2本が倒壊 インド 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
http://www.afpbb.com/articles/-/3171019


7月に入り環境学者であり弁護士のMC Mehta氏は、インドの最高裁判所に対してタージ・マハルを救うための嘆願書を提出。裁判所はこれを認め、建物の保全に責任を負う州および連邦政府、インド考古学調査(ASI)に対して公聴を行うよう命じました。また、裁判所はタージ・マハルの保全について「タージ・マハルは守られるべきです。しかし、政府がこのような無関心を続けるのであれば、建物を閉鎖し、形が保てないのであれば取り壊すべきです」と述べています。

タージ・マハルを保全しようとする動きは今に始まったことではなく、1980年代半ばには既にありました。その数年前から既にタージ・マハル周辺の空気の汚染が問題視されており、タージ・マハルのあるアーグラでは著しいレベルの二酸化硫黄と粒子状物質が報告されていたといいます。これらの物質は雨と混ざり合うことによって酸性雨となり、タージ・マハルに降り注ぐことで壁が黄色く変色したとユネスコはインド政府に報告しています。Mehta氏も1984年に「タージ・マハルが変色した背景には鋳物工場、化学工業、製油所の存在がある」と主張する嘆願書を裁判所に提出しました。

Mehta氏が嘆願書を提出してから9年後に裁判所はMehta氏の主張を認め、該当地域の汚染を減らすよう命令を出しました。この結果アーグラ周辺、特にタージ・マハル近くの汚染原因となっている施設が閉鎖されることに。同地域において石炭を使用することは違法となり、天然ガスの使用のみが許可されたとのこと。また、ディーゼル車やディーゼル機器も禁止され、製革所が撤去されたほか、水牛をヤムナー川につれていくことや川での洗濯も禁じられました。


そして1998年、裁判所はタージ・マハル周辺の1万400平方キロメートルを、排出ガスが厳重に管理される「Taj Trapezium Zone」として設定しました。しかし、インド政府が裁判所命令に従わなかったため状況は改善せず、汚染は以前よりもひどくなり、2018年になって再びMehta氏が裁判所に嘆願書を提出することになったわけです。

タージ・マハルの汚染は空気によるものに限りません。タージ・マハルのそばを流れるヤムナー川は「世界で最も汚染された川」といわれています。環境学者のBrij Khandelwal氏によると、デリーからアーグラにかけて存在する工場は化学物質や廃棄物を直接川に流しており、アーグラの都市排水管の約90%も何の処理もせずヤムナー川に排水を流しているとのこと。このような状況で魚が生息することは不可能なので、川では魚が補食するはずだったハエや蚊、その他の虫が大量発生しているそうです。そして、それらのフンによってタージ・マハルはさらに変色するわけです。

さらに、水の汚染だけではなく水位の減少もタージ・マハルに打撃を与える一因となっています。タージ・マハルは180個の井戸と木台の上に立っていますが、これらは「年中水があること」を前提としています。歴史家のProf Ramnath氏によると、ムガル王朝時代の建物の多くは川から離れた広場に建てられましたが、タージ・マハルは水を引くために、ヤムナー川のほとりに建てられました。しかし、建設当時は多くの施設が川から離れた場所にあったものの、人口が増加した現代ではダムや用水路がヤムナー川に作られ、川の水量が減少。水が減ってしまったために土台の木材が空気にさらされることとなり、乾燥してもろくなっているのだといいます。


タージ・マハル周辺の「タージガンジ」という区画はディーゼル車やディーゼル機器の使用を禁じられている場所の1つ。タージ・マハル建設に携わった職人たちの子孫が暮らすタージガンジは、タージ・マハルの遺跡の一部だと見なされています。当時の職人たちは子孫に技術を伝えたので、現代のタージガンジを生きる人々の中にもその技術を使い、タージ・マハルのレプリカを作って暮らす人がいるとのこと。タージ・マハルを修復できるとすれば、技術を受け継いだタージガンジの職人しかいないのですが、政府の許可が下りないため、職人たちは修復を行うことができません。

一方で、「生きた遺跡」であるとされるタージガンジではディーゼルが使えない以外にも制限があり、老朽化が指摘されています。タージガンジの先代の職人たちは汗や血を流しながらタージ・マハルを建設したにも関わらず、「その見返りは冷淡と、無視、無関心です」とタージガンジで暮らすSandeep Arora氏は語りました。ホテルを経営するArora氏が部屋のトイレを修復しようとすると、許可を得るために政府に6通もの手紙を送らなければならないそうですが、一方で政治家や政府職員がタージ・マハルに来る際にはディーゼル車が使われることをArora氏は不満に思っているといいます。


このような状況を何とかするため、裁判所は市の委員であるK Mohan Rao氏に対してタージ・マハルとアーグラの遺跡の保全を委託しました。Rao氏は用水路や家庭から出る大量のゴミの処理に取り掛かっているとのこと。また、アーグラ全体のインフラを改修してアーグラをスマートシティー化する提案もあるそうですが、このような方法では市の遺跡が失われるのではないかという懸念もあります。環境学者のKhandelwal氏はあくまで、タージ・マハルの周囲の建物や、19世紀後半にイギリスによって修復されたものを保存する形での計画を求めています。

また、ASIはタージ・マハルをフラー土で修復するプログラムを進めていますが、フラー土を使うと建物を砂嵐によるダメージに対して弱くするという指摘もあります。そして何より、タージ・マハルの保全にはヤムナー川の復活とタージガンジの協力が必須だともいわれています。

by Simon

長年タージ・マハルの保全を訴えてきた Mehta氏は、建物の基礎が非常に弱くなっていることから「希望はほとんどない」とみています。「裁判所の命令によって多くの機関がタージ・マハルの保全について調査を行い、報告書を提出しています。裁判所も、命令に次ぐ命令をだしています。残念ながら当局は真剣ではなく、私は年を取りました。しかし、これからも戦いを続けていきます」とMehta氏は述べました。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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