世界最高とうたわれたケニアコーヒーはなぜ衰退したのか?
by Andy Ciordia
ケニアコーヒーは、かつて世界中のコーヒー愛好家を魅了する「最高のコーヒー」として名高い存在でしたが、近年ではその品質が低下しているという声が増えています。コーヒー業界専門のコンサルタントでバリスタの資格も持つクリストファー・フェラン氏が、ケニアコーヒーの直面する複雑な問題を解説しています。
Kenya and “the decline of the world’s greatest coffee” – Christopher Feran
https://christopherferan.com/2021/12/25/kenya-and-the-decline-of-the-worlds-greatest-coffee/
ケニアにコーヒーが初めて持ち込まれたのは1893年のことです。当時、スコットランドの宣教師であるジョン・パターソンがイギリスの東インド会社から種を入手し、ケニアでの栽培を開始しました。その後、ウガンダ鉄道の建設や欧州からの入植者の到来により、ケニアでは大規模なプランテーション農業が進展します。20世紀初頭には、茶やコーヒー、麻などの輸出用作物の栽培が拡大し、コーヒー産業も急成長を遂げました。しかし、この産業の中心にいたのは植民地支配者であり、地元の農民たちはその利益から排除されていました。
フェラン氏は、ケニアコーヒー産業の問題点の一つとして「オークションシステム」を挙げており、生産者を市場から遠ざけ、中間業者が莫大な利益を得る仕組みを形成していると指摘しています。生産者は収穫から6カ月以上も支払いを待たなければならず、その間の生活費や農業資材の購入費を高金利の借入で賄う必要があります。そのため、オークションシステムは生産者にとって非常に厳しいものとなっており、「なぜコーヒーを作り続けるのか」という疑問が広がる背景にもなっているとのこと。
by Rod Waddington
ケニアコーヒーの品質低下については、伝統的なSL-28やSL-34といった品種の代わりに、病害に強いルイル11やバティアンといった品種が普及していることが一因とされています。しかし、フェラン氏はこれを単純な原因として捉えることに疑問を呈しており、品質低下の核心には生産システムの問題があると指摘しました。
生産システムの中でも、フェラン氏が注目しているのが「二次発酵」プロセスです。ケニアコーヒー特有の風味を生むこの工程は、まずコーヒーチェリーを12〜24時間発酵させた後、一度洗浄し、その後再び清潔な水に浸すという手法を取ります。この「二次発酵」工程により、コーヒー豆は発酵過程で生成された酢酸などの有機酸をわずかながら吸収し、それが独特のフルーティーで華やかな香りをもたらすと考えられています。また、この工程は発酵タンクの回転効率を高めることにも寄与し、乾燥スペースの不足という課題を解消する手段としても機能してきました。
by DEMOSH
しかし最近では、この二次発酵がコスト削減のために省略されるケースが増えているとのこと。その結果、ケニアコーヒーの風味が失われ、全体的な品質が低下しているそうです。さらに、乾燥プロセスにおいても、均一な湿度管理が行われなくなったことから、豆が早期に劣化するリスクが高まっています。
加えて、ケニアではコーヒー豆のパーチメント(外皮)が輸出前に取り除かれるため、劣化しやすくなる問題もあります。他の生産国では、パーチメントの状態で豆を保存することで、劣化を防ぎながら安定した品質を保つ手法が一般的です。
こうした課題を解消するため、ケニアコーヒー産業では2021年に提案された「コーヒー法案」を含む改革の動きが注目されています。この法案は、腐敗したシステムを見直し、生産者により多くの利益をもたらすことを目的としています。また、小規模なミルやマイクロミルの導入により、生産者が自身の製品を差別化する可能性が広がると期待されています。
by Imagin Extra
ケニアコーヒーの衰退を食い止めるためには、まず生産者への直接的な支払い制度を確立し、低金利での資金融資を実現することが必要不可欠である、とフェラン氏。また、制度的な不平等を解消するためには、政府レベルでの構造改革が求められると主張しました。特に、二次発酵や乾燥工程の改善を再度検討し、ケニア独自の品質を守るための努力を続けるべきだと述べています。
フェラン氏は、「ケニアコーヒーは、その歴史と魅力を未来に繋ぐ価値のある存在です。改革と支援を通じて、生産者と消費者の双方にとって持続可能な仕組みを構築することが、今後の鍵となるでしょう」と論じました。
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