ブラックホール「LID-568」は理論上の限界の40倍以上という驚異的速度で成長している
by NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/M. Zamani
アメリカ国立科学財団・光赤外線天文学研究所(NOIRLab)の研究チームが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とチャンドラX線天文台のデータを用いて、「LID-568」と名付けたブラックホールを発見しました。LID-568は、理論限界の40倍を超える驚異的速度で周囲の物質を消費する、超大質量ブラックホールだとのことです。
A super-Eddington-accreting black hole ~1.5 Gyr after the Big Bang observed with JWST | Nature Astronomy
https://www.nature.com/articles/s41550-024-02402-9
NSF NOIRLab Astronomers Discover the Fastest-Feeding Black Hole in the Early Universe | NOIRLab
https://noirlab.edu/public/news/noirlab2427/
This Black Hole Is Eating Stuff at Over 40 Times The Theoretical Limit : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/this-black-hole-is-eating-stuff-at-over-40-times-the-theoretical-limit
noirlab2427a - YouTube
銀河中心部には超大質量ブラックホールが存在することが観測されていますが、こうしたブラックホールがどのようにしてこれほど巨大に成長したのかは詳しくわかっていません。しかし、ビッグバンからわずか15億年後に生まれたLID-568が急速に物質を消費していることがわかり、初期宇宙で急速に成長したブラックホールのメカニズムについての洞察が得られているとのこと。
LID-568を発見したのは天文学者のヘウォン・スー氏が率いる、複数機関に所属する天文学者チームです。
LID-568は可視光や近赤外線では見ることができませんが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外分光器(NIRSpec)のおかげで、微弱なX線放射を検出することができたとのこと。しかし、X線の観察だけでは正確な位置を決定できず、従来のスリット分光法ではなく面分光器が用いられました。論文の共同著者であるエマニュエル・ファリーナ氏は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡なしではLID-568を検出することはできませんでした。また、面分光器を用いることは革新的な選択で、観測結果を得るために必要なものでした」と述べています。
Artist’s Impression of Fastest-feeding Black Hole in the Early Universe | NOIRLab
https://noirlab.edu/public/images/noirlab2427a/
by NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/M. Zamani
研究チームは、LID-568とその周辺領域の全体像を把握したことで、ブラックホールの周囲に激しいガスの噴出があることを発見。その噴出速度や規模から、LID-568の大規模な成長の大部分は1度に急激に起きたものである可能性が推測されるとともに、LID-568はエディントン限界の40倍の速度で物質を取り込んでいるように見えることがわかりました。
エディントン限界とは、ブラックホールからの放射圧と重力が釣り合う限界のバランスのこと。ブラックホールが発するすさまじい光が重力を上回ると、周囲の物質がブラックホールに落下しなくなりますが、LID-568はその限界を大きく超えた勢いで物質を消費されることが、観測結果から示唆されています。
論文の共同著者の1人であるジュリア・シャルヴェヒター氏はLID-568が「ごちそうを食べている」と表現。「このような極端な事例は、エディントン限界を超える高速供給メカニズムが、宇宙初期に超大質量ブラックホールが観測された理由の可能性の1つであることを示しています」と述べました。
現行の理論では、超大質量ブラックホールは宇宙初期に死んだ星(軽い種)か、ガス雲の崩壊(重い種)のいずれかによって生じると考えられていますが、今回の研究結果は、より小さなブラックホールの「種」からの超大質量ブラックホールの形成について、新たな洞察を提供するものだとのことです。
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