「最も指を切りやすい紙の厚さ」が研究で判明
印刷業や事務職など紙をよく扱う仕事に就いている人の中には、深い傷ではないのにやたらと痛くて治りにくい紙での切り傷にイライラしている人が少なくないはず。厚紙よりも鋭利で、ティッシュよりも強固な「人の肌を切るのにちょうどいい紙の厚さ」が、デンマーク工科大学の物理学者たちが行った実験により特定されました。
Phys. Rev. E 110, 025003 (2024) - Competition between slicing and buckling underlies the erratic nature of paper cuts
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.110.025003
Paper types ranked by likelihood of paper cuts
https://phys.org/news/2024-08-paper-likelihood.html
Scientists Reveal The Absolute Worst Thickness For a Paper Cut : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-reveal-the-absolute-worst-thickness-for-a-paper-cut
デンマーク工科大学のKaare Jensen氏らによると、紙は情報の保管と伝達により1000年以上にわたって人類の文化の中心となってきたにもかかわらず、意外にも紙が軟組織を切り裂く物理的なメカニズムは未解明だとのこと。
なぜペラペラの紙で指が切れるのかの謎に切り込むべく、Jensen氏らのチームは人の肌に似た固さの弾道ゼラチンを用意し、複数の種類の紙でゼラチンを切りつけてその結果を記録しました。
by S. Arnbjerg-Nielsen, M. Biviano & K. Jensen, Technical University of Denmark
これにより、薄すぎる紙は反り返ってしまうので切り傷を起こしにくく、また厚い紙も切れ味が鈍いためゼラチンを切り裂くことがほとんどできないことが確認されました。
一方、新聞やドットマトリックスプリンターのプリント用紙のような、厚すぎず薄すぎない紙は最も切り傷になりやすい紙だということがわかりました。
by S. Arnbjerg-Nielsen, M. Biviano & K. Jensen, Technical University of Denmark
危険な紙の厚さは50~100マイクロメートルで、最も切れ味が鋭いのは65マイクロメートルだったとのこと。ちょうど、著名な科学誌であるNatureやScienceもよく指が切れる厚さです。なお、研究チームはこの論文をNatureでもScienceでもなくアメリカ物理学会が刊行するPhysical Review Eで発表しました。
by S. Arnbjerg-Nielsen, M. Biviano & K. Jensen, Technical University of Denmark
研究チームは論文に「もっとも、使用者の習慣や器用さも一役買っていることを指摘しておく価値があるでしょう。とりわけ、紙を切る可能性を最小限にするような触り方を守れば、紙での創傷のほとんどを回避できます」と記しました。
この論文を取り上げたサイエンス系ニュースサイト・ScienceAlertは「要するに、紙で指を切る人は不器用だと言っているようです。失敬な」とコメントしています。
この研究は指を切りにくい紙製品の開発に役立てられる可能性がありますが、もっと別の応用方法もあります。
研究チームは、どんな紙の切れ味が鋭いのかの知見を生かして、低コストでよく切れる紙製メス「Papermachete」を開発しました。
by S. Arnbjerg-Nielsen, M. Biviano & K. Jensen, Technical University of Denmark
使用済みのプリンター用紙と、3Dプリンターで作った再使用可能な柄でできたPapermacheteを使うことで、研究チームは野菜や果物、鶏肉を切ることができました。
by S. Arnbjerg-Nielsen, M. Biviano & K. Jensen, Technical University of Denmark
3DプリンターでPapermacheteを作るためのデータはGitHubで公開されています。
GitHub - Jensen-Lab/PhysicsOfPaperCuts: Arnbjerg-Nielsen, Sif F., Biviano, M. D., and Jensen, K. H. (2024). Competition between slicing and buckling underlies the erratic nature of paper cuts. Physical Review E.
https://github.com/Jensen-Lab/PhysicsOfPaperCuts
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