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コンピュータ犯罪は世界で起きまくっているのに犯罪小説のテーマになることが少ない理由とは?


犯罪を描く作品や推理小説では、多くの場合は殺人や窃盗、組織犯罪などがテーマとなります。一方で、世間では大きな事件が頻発しているのにミステリー系の作品のテーマにはあまり登場しないのが、ハッキングやマルウェア拡散などのサイバー犯罪です。なぜサイバー犯罪が物語のテーマになりにくいのかという理由には重要な洞察が含まれていると、サスペンス作家のスティーブン・ハリソン氏が解説しています。

Crime Fiction Must Not Ignore Computer Crime ‹ CrimeReads
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物語のジャンルに、テクノスリラーというものがあります。テクノスリラーとは、スリラーやスパイ小説、アクション、戦争小説などにおいて、サイエンス・フィクションのように技術的な描写や詳細が深く作りこまれ、専門的な知識が多く登場するというもの。テクノスリラーは20世紀初頭ごろに登場し、技術的発展とともに人気は高まっています。しかしハリソン氏によると、推理小説や犯罪小説といったミステリーのベストセラーでは、テクノスリラーのように技術的観点が深く入ったサイバー犯罪などがほとんど登場しないとのこと。

原因のひとつに、あくまでタイミングの問題という捉え方が考えられます。小説の執筆には構想から完成まで何年もかかることが多く、特に専門的なジャンルは調べたり理論を組み立てたりするのに時間がかかるため、世間の流行と作品ジャンルの流行が同期しにくいという可能性です。しかし、インターネットが広く使われるようになってから30年以上経過していたり、1984年にはウィリアム・ギブスンがサイバーパンクの代名詞的な作品とされる「ニューロマンサー」を描いていたりと、インターネットに関しては作家と読者が新技術に適応するのに十分な時間はあり、とりわけミステリー分野だけ適応してないのはおかしいとハリソン氏は指摘しています。

そのほかの原因として、犯罪のトリックを見破って犯人を当てることで盛り上がりを見せることの多いミステリーでは、サイバー犯罪がドラマチックな魅力に欠けるものである可能性もあります。ハッキングやマルウェアは現実に深刻な問題ですが、小説の中で名探偵がコンピューターウイルスを発見しても、トリックを見破った時のような衝撃は生まれにくいです。


また、コンピューター犯罪の技術的難しさも、専門家以外が扱うにはフィクションであってもためらってしまう原因となりえます。ただしこの点については、ハリソン氏は「フィクションを書く大きな利点のひとつは、読者に明らかにする詳細の量を制御できることです。また、読者の中には、物語に引き込まれるのに役立つ場合、フィクションに含まれる技術的複雑さを楽しむ人も確実にいます」と、難しいからこそ技術的な犯罪小説が成立する可能性を示唆しています。

心理療法士兼作家のヤエル・ゴールドスタイン氏は、「テクノロジーを作品に取り入れる」ことが難しい理由として、「科学が作者を助けてくれず、逆に苦しめてくる」という問題が発生することがあると述べています。ゴールドスタイン氏は、テクノロジーや科学を利用したストーリーにしたことで、恐怖をあおるべきシーンで逆に恐怖が伝わらなくなってしまったり、感動的なはずのシーンではかえって混乱させてしまうような失敗を何度も体験したそうです。そこで、テクノロジーや科学を物語に取り入れる際のルールとして、「用語や理論を必要以上に詳しく説明しない」「1回で十分な説明は繰り返さない」「科学だけの話はせず、登場人物の気付きや成長に絡ませる」という3点をゴールドスタイン氏は意識しているとのこと。

最新テクノロジーや科学をフィクション作品に取り入れる際に注意すべきポイントと「エレガントな方法」とは? - GIGAZINE


結論として、ハリソン氏はコンピューター犯罪がフィクションに登場しにくい理由を、読者が求めているものにあると指摘しています。PCやスマートフォンでの仕事やメッセージのやりとり、デジタルコンテンツなどに囲まれた時代で、本を読むときは「デジタル世界のストレスから逃れたい」という目的も含まれている場合があります。「そのような読者にとって、本の中でもコンピューター犯罪を見たくないという意識が古くからあるため、サイバー犯罪やコンピューターテクノロジーがテーマとなるフィクションは、SFジャンル以外では流行しにくかったのではないか」とハリソン氏は考察しています。

現代では、インターネットの普及はもちろんのこと、メタバースやAI、ロボットなどが身近なテクノロジーとして絡み合っています。これらを小説に反映することは、現代生活のより正確な描写であるとともに、現代のテクノロジーの善悪を探る試みにもなるとハリソン氏は指摘。ミステリーにおいても、テクノロジーを絡めることで、リアルさを加えつつ、作品の道徳的重要性を高めることができるとハリソン氏は語っています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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