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20世紀のSF小説の表紙を飾ってきたアートの数々を紹介するムービー


20世紀アメリカのSF小説やファンタジー小説の表紙を飾る個性的なイラストを紹介するムービーを、多くのムービーエッセイをアップするNerdwriter1が公開しています。また、ムービーではなぜSF小説やファンタジー小説の表紙を多種多様なイラストが飾るようになったのか、その歴史もあわせて解説されています。

The Art Of Sci-Fi Book Covers - YouTube


SFアートの第一人者といえば、フランク・R・パウルです。


パウルは、「アメリカSFの父」と呼ばれる名編集者のヒューゴー・ガーンズバックに見いだされ、世界初のSF専門誌「アメージング・ストーリーズ」の表紙イラストを描くようになります。


パウルは、それまで文字だけで表現されていたSF小説に登場する宇宙船・宇宙人・巨大な昆虫・レーザーガンなどを独特のセンスで描き出し、人びとに強烈なインパクトとイメージを与えました。


パウルが描いた「アメージング・ストーリーズ」の表紙イラストで最も有名な作品が、H.G.ウェルズの「宇宙戦争」を再録した号の表紙です


この宇宙人が乗る三本足の乗り物・トライポッドは、2005年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の映画「宇宙戦争」でも踏襲されているデザインです。


なぜSF小説でこのようなイラストが必要になったのかというと、1920年代当時はSF小説やファンタジー小説が「文学未満で冗長なもの」として軽んじられていたからです。そのため、人びとの手に取ってもらうためには、インパクトのある絵で作品の内容を伝え、どんな話なのだろうと興味を持ってもらわなければなりませんでした。


SF小説の表紙に独特のインパクトがあり、幻想的で奇妙な絵柄が多いのは、消費者をひきつける戦略の副産物といえるだろうとNerdwriter1は論じています。以下の画像はフィリップ・K・ディック「偶然世界」の表紙。


1939年には、アメリカではペーパーバック専門の出版社であるポケットブックスが設立し、一般の人びとも気軽に小説を買って読むようになりました。


特に、ポケットブックスが第1回配本の1冊として出版されたジェームズ・ヒルトンの「失われた地平線」は、なんと250万部以上の大ヒット。この作品をきっかけにアメリカでもペーパーバック文化が花開くこととなります。


縦7インチ(約18cm)×横4.3インチ(約11cm)という縦長の規格もこの頃に生まれ、以後はこのキャンバスサイズを生かした表紙が多く登場します。これはジャック・ウィリアムスン「宇宙軍団」の表紙。


アイザック・アシモフ第二ファウンデーション


エイヴラム・デイヴィッドスン「不死鳥と鏡」


めちゃくちゃ盛り上がっているアメリカのペーパーバック業界を見て参入してきたのが、イギリスのペーパーバック専門出版社のペンギンブックスでした。ペンギンブックスは、絵を使わずシンプルにタイトルと作者だけを記すというデザインでイギリスでは大成功を収めていました。しかし、アメリカではシンプル過ぎるデザインは消費者に手にとってもらえず、いまひとつの結果となっていました。


そこで、アメリカのペンギンブックスもSFジャンルを売り出すために、表紙にイラストを掲載するようになり、シリーズ毎にアートディレクターがデザインを考えていたとのこと。


60~70年代は、アートディレクターの個性によって、多種多様な表紙アートが生まれました。


アラン・アルドリッジはJ・G・バラード「狂風世界」やアルフレッド・ベスター虎よ、虎よ!」、ハリイ・ハリスン「人間がいっぱい」などで表紙を手がけました。黒地を背景にサイケデリックでおどろおどろしいカラーイラストが描かれているのが特徴です。


1970年代に活躍したフランコ・グレッグナニは実験写真のパイオニアで、その作品はまるで抽象画のようです。


デヴィッド・ペラムの代表作は、アンソニー・バージェスによる小説で、後にスタンリー・キューブリックにより映画化された「時計じかけのオレンジ」の表紙アートです。


他にも、ペラムは写真を取り込んで構成したカラフルな表紙アートを得意としました。


SF小説の表紙が奇妙で印象深いものが多いのは、SF小説の内容を反映しているからというだけでなく、多くの人の目にとまって手にとってもらうためです。さまざまなものがごちゃ混ぜになっていて、正当に評価されることも少ないですが、美術史の小さなジャンルの1つとして、SF小説の表紙アートは独特の世界を確立しているのです。


このように、アメリカではSF小説の表紙アートが1つの文化として確立していきました。現代の映画・アニメ・ゲームの根底にも、この表紙アート文化が確かに息づいているといえます。ムービーではここで紹介した以外にもたくさんの表紙アートが紹介されているので、気になる人はぜひムービーをチェックしてみてください。

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in 動画,   デザイン,   アート, Posted by log1i_yk

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