健康なサンゴ礁の音を水中スピーカーで流すと損傷したサンゴ礁が再生することが判明
熱帯の外洋に面した海岸でよく発達するサンゴ礁は、近年地球温暖化や乱獲、水質汚染などの影響で深刻な喪失の危機にひんしています。アメリカ・マサチューセッツ州のウッズホール海洋研究所に勤めるナデージュ・アオキ氏らの研究チームが、損傷したサンゴ礁に対し健康なサンゴ礁で録音した音を聞かせると、サンゴの発育状況が改善したことを報告しました。
Soundscape enrichment increases larval settlement rates for the brooding coral Porites astreoides | Royal Society Open Science
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.231514
Playing thriving reef sounds on underwater speakers ‘could save damaged corals’ | Coral | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2024/mar/13/playing-thriving-reef-sounds-underwater-speakers-save-damaged-corals
研究チームは、サンゴの幼生が水中に放たれると、他のサンゴが発する音に向かって泳ぎ、そこで定着して成長するというこれまでの研究を基にした実験をアメリカ領ヴァージン諸島で実施しました。
実験では、ヴァージン諸島セントジョン沖に生息する3つのサンゴ礁の付近に水中スピーカーを3日間にわたって設置。そのうち1つからは健康な同じ種のサンゴ礁の音が再生され、残りの2つのスピーカーからは損傷したサンゴ礁からの音や、健康な別の種のサンゴ礁からの音が再生されました。
研究チームは3つのスポットで、スピーカーから最大30メートル離れた容器に入ったサンゴの幼生の数を測定しました。その結果、健康な同種のサンゴ礁の音を再生した場所では、他の場所よりも平均1.7倍もの数のサンゴの幼生が定着していることが確認されました。また、スピーカーからの距離に応じて幼生の定着率が低下していることも判明し、スピーカーからの音が要因であることも示唆されています。
アオキ氏は「スピーカーを一定時間水中に沈めるだけで、サンゴの幼生の成長が促されるだけでなく、そこに集まる魚の数も増加します。そのため、この取り組みがサンゴ礁を復活させるための他の取り組みと組み合わせることができるのではないかと期待しています」と述べました。
一方でアオキ氏は「水質汚染などの影響で絶滅の危機にひんしているような場所で今回の技術を用いて成長を促すことは望まれていません。この取り組みは、これらのサンゴの生存と時間の経過に伴う成長を確実にするためのステップを踏んだ多面的な取り組みでなければならず、この技術の応用については、非常に慎重になる必要があります」と指摘しました。
ブリストル大学の海洋生物学者であるスティーブ・シンプソン氏は「今回の研究は、音声の再生がサンゴの生息地でのサンゴの定着をどのように促進できるかについて実証した非常にエキサイティングな研究です。サンゴ礁は、気候変動にとっての最初の被害者となることが多く、サンゴ礁を救うことができれば、どんなことでも成し遂げられるはずです」と語っています。
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