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70のペンネームを持つ作家フェルナンド・ペソアの生涯とは?


ポルトガルの国民的な作家として有名で、1988年にはポルトガル通貨の肖像にもなったフェルナンド・ペソアは、死後にトランクいっぱいの遺稿が発見されて注目を浴びるようになったことで知られています。そんなペソアの驚くべき執筆方法と生涯について、科学や文化についてアニメーションで解説するYouTubeチャンネルのTED-Edが取り上げています。

These 70 writers are actually all the same person - Ilan Stavans - YouTube


1935年にペソアが亡くなった時、ポルトガルの首都リスボンにあるペソアのアパートの中で、未発表の原稿がいくつも詰まったトランクが発見されました。驚くべきは、トランクに入っていたのはさまざまな背景や出自を持つ数十人の作家によるさまざまなジャンルの作品だった点。数十人の作家はすべてペソアが作り出した架空の人物で、遺稿は架空の人物の作品として作られていました。


作家がペンネームを使うことは珍しくありません。たとえば、「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティは、メアリ・ウェストマコットという別名義で、6冊の恋愛小説を出版しています。「トム・ソーヤの冒険」で有名なマーク・トウェインは、サミュエル・ラングホーン・クレメンズが蒸気船の合図である「by the mark, twain」から付けた名前だと知られています。


しかし、ペソアのペンネームは少し特殊です。ペソア自身はそれを「HETERONYMS(異称)」と呼称しており、自分自身の別名義ではなく「自分が作り出した他人」として執筆をしています。そのため、ただ他の名前を名乗っているだけではなく、新しい名前にはその人の生活やクセなどをそれぞれ考えた上で、独自の文学的表現ができるようにしていたとのこと。


時には、ペソアが作り出した架空の作家同士が交流し、互いに作品を批判し合うようなこともあったとペソアは語っています。ペソアは自分自身を「自分の意識を通した遊牧民」と表現し、分裂したいくつもの存在たちの「一種の媒介」だと述べています。


ペソアは1888年にリスボンで生まれ、6歳のころから文章を書き始めましたが、その時点で既に別人として執筆していたそうです。6歳のペソアが書いた手紙には、架空のフランス人であるシュヴァリエ・ド・パと署名がされていました。


ペソアは1895年に家族で南アフリカに移住し、新しくいくつかの言語を習得しました。その後、高校生の頃には複数の異称を用いて、詩の小冊子を出版しています。


1905年にペソアはリスボンに戻り、その後生涯をリスボンで過ごしました。ペソアは芸術と文学の雑誌を刊行する出版社を設立しましたが、これらの事業はうまくいかず、借金を抱えて頻繁に引っ越しをしていました。


住みかを転々としながら、ペソアの文学的実験は非公開で進行していました。ペソアは封筒や本のカバー、簡単なメモにさまざまな言語で走り書きし、脊髄に障害を持つ十代の少女、マリア・ホセとしてラブレターを作成しています。また、ホレス・ジェームズ・フェイバーという名前で探偵小説を、ラファエル・バルダヤとして占星術のホロスコープ分析を行うなど、さまざまな名前をさまざまなジャンルで使い分けていました。


中でもペソアが頻繁に用いたのは、羊飼いの詩人であるアルベルト・カイエロ、古典的な詩のスタイルを好む医師のリカルド・レイス、バイセクシャルの海軍技師で遊牧民であるアルバロ・デ・カンポスの3人。デ・カンポスとしては、「実際に存在しない架空の人物であるのはフェルナンド・ペソアである」と手記に残しています。


ペソアは詩や手紙、エッセイ、文学批評を発表しましたが、ポルトガル語で書かれたのはポルトガルにおける神話の歴史を主題にした詩集「メッセージ」のみで、その作品によりペソアはポルトガルで注目されました。しかし、ペソアの創作活動が真に注目されたのは「メッセージ」の出版から1年後にペソアが亡くなった際、ペソアのトランクから約3万ページの未発表原稿が見つかったことによります。


見つかった未発表原稿から批評家たちが編集した「The Book of Disquiet(不安の書)」という作品は、ベルナルド・ソアレスという人物の「存在しなかった人物の自伝」として書かれています。その中でペソアは、ソアレスを「自身のほんの一部を切り離したもの」と表現しました。ペソアは常に自己のアイデンティティと向き合っており、「私の魂は、実態が見えないオーケストラです。そこにはどんな楽器があり、どんなヴァイオリンやハープ、ドラムが音を奏でているのか、私にはわかりません。私は自分自身を、交響曲としてしか知らないのです」と「不安の書」の中で書いています。

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in 動画, Posted by log1e_dh

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