サイエンス

ランニングはゆっくりでOKと専門家、プロのアスリートも実践している「スローランニング」とは?


健康的な運動を習慣にしようとランニングを始めたのに、キツすぎて挫折してしまい、ランニングシューズがほこりをかぶっているという人は少なくないはず。息が苦しくなるようなペースで走らず、会話できる程度のゆっくりした速度で走る「スローランニング」の効果について、専門家が解説しました。

It’s okay to run slowly – in fact it has plenty of benefits
https://theconversation.com/its-okay-to-run-slowly-in-fact-it-has-plenty-of-benefits-221516

◆プロ選手のトレーニングはスローペース
多くの人は、「長距離走の第一線で活躍するアスリートなら、きっと記録更新に迫るような厳しいペースでのトレーニングを重ねているのだろう」と思うかもしれません。

しかし、イギリスにあるアングリア・ラスキン大学の運動生理学者であるダン・ゴードン氏らによると、「マラソン界の絶対王者」と呼ばれる陸上選手のエリウド・キプチョゲや、世界新記録の保持者であるケルヴィン・キプタムのようなマラソンランナーは、トレーニング時間の約8割を「心拍ゾーン2」のランニングに費やしているとのこと。

ゾーン2の運動は、心拍数こそ上がりますが、走りながら会話ができるような遅いペースです。このスローペースでのトレーニングをじっくり行うので、アスリートが本番のペースに近い高強度でのトレーニングをする時間は全体の2割程度しかありません。


◆ゆっくり走るメリット1:ケガの予防
アスリートがゆっくり走るのは、トレーニングが体に与えるストレスの大きさに関係しています。走る速度を上げると、体にかかる負担も増大します。そして、体にかかる負担が大きくなればなるほど、ケガや病気などのリスクも増えていきます。

そのため、アスリートは高負荷で走る時間を少なくして、故障や体調不良でトレーニングができなくなってしまうリスクを回避しています。

◆ゆっくり走るメリット2:基礎体力作り
ゆっくり走るメリットは、単にケガや病気のリスクを減らせるだけではありません。トレーニングの基本的な目的の1つに、「ベース」と呼ばれる基礎固めがありますが、このベースは生理的ストレスが比較的少ないゾーン2のスローランニングによって培われます。

ベースの重要性について、ゴードン氏らは「ピラミッドを思い浮かべてください。土台が大きければ大きいほどピラミッドを高くできますが、これはトレーニングも同じです。ベースがしっかりしていればしているほど、より高い強度でのトレーニングが可能となるのです」と説明しました。


ゾーン2のランニングでは、心臓に大きなストレスはかかりませんが、心臓から体に送り出される酸素を含んだ血液の量は最大か、最大に近い量になります。つまり、それ以上運動の強度を上げても、トレーニングによって鍛えられる心臓のポンプ能力はほとんど変わらないということです。

ランニングの成功には、しっかりとしたベースを作り、1回の鼓動でより多くの酸素を筋肉に送り込めるようにすることが不可欠だと、専門家たちは指摘しています。

◆ゆっくり走るメリット3:脂肪の燃焼と体質改善
ゴードン氏らによると、スローペースでランニングすると、食事から摂取された炭水化物ではなく体に蓄積された脂肪がエネルギーとして利用されるようになるとのこと。

脂肪の分子1個から得られるエネルギーの量は、炭水化物の分子から得られるエネルギーよりはるかに多いため、脂肪の燃焼は効率的なプロセスです。そして、効率的にエネルギーを消費できるようになれば、疲労の蓄積を軽減させ、レース当日のパフォーマンス改善にもつながります。


2010年に発表された研究によると、スローランニングに多くの時間を費やしたアスリートは、最大酸素摂取量(VO2max)とレース中の速度の上昇率が1%高くなるとのこと。さらに重要なことに、ゆっくり走るランナーは、高強度のランニングを頻繁に行うランナーに比べて「有酸素性ベース」が約5倍も向上することがわかりました。

「ほとんどのランニングを低強度で行うことは、アスリートではない人にとっても最適でしょう」とゴードン氏らは述べています。

◆スローランニングの実践法
スローランニングを実践する上で最も重要なのは、自分のペースを守ることです。生理学的には、ゾーン2の運動は乳酸性閾値、つまり運動によって炭水化物を燃焼した時に発生する乳酸が血液中に蓄積し始める運動強度だと定義されています。とはいえ、ランニング中に採血して血中乳酸値を測定するわけにはいきません。


より簡単な基準は、走りながら会話ができるかどうかです。息を整えるのに苦労することなく、走りながら大きい声で話すことができるのであればちょうどいいペースだということになります。一方、息が上がったり足が重く感じたりするようなら、筋肉に乳酸がたまり始めている兆候です。

ゴードン氏らは末尾で、「スローランニングは、心身の両方に多くのメリットをもたらします。この話を聞けば、自分のランニングペースが遅いのが恥ずかしいと思っていた人も、もう一度トレーニングシューズを履いてランニングに繰り出したくなるのではないでしょうか」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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