サイエンス

近赤外光を当てるだけで激しい振動を起こしてがん細胞を破壊できる方法が発見される


ライス大学、テキサスA&M大学、テキサス大学の研究チームが、がん細胞を近赤外光で刺激すると、がん細胞に含まれる分子が同調して振動し、がん細胞の細胞膜をバラバラに分解して破壊する方法を発見したと報告しています。

Molecular jackhammers eradicate cancer cells by vibronic-driven action | Nature Chemistry
https://www.nature.com/articles/s41557-023-01383-y


Molecular jackhammers’ ‘good vibrations’ eradicate cancer cells | Rice News | News and Media Relations | Rice University
https://news.rice.edu/news/2023/molecular-jackhammers-good-vibrations-eradicate-cancer-cells

報告された方法の肝になるのがアミノシアニンという分子です。アミノシアニンはバイオイメージングに使われている合成色素で、水中でも安定しており、がん細胞の検出に使われる物質です。

がん細胞膜にくっついたアミノシアニンは近赤外光で刺激されると振動し、「プラズモン」と呼ばれる集団振動する量子が生まれ、がん細胞の細胞膜を破壊するとのこと。この方法は、実験室培養のヒト黒色腫(メラノーマ)細胞を99%の効率で破壊可能で、黒色腫腫瘍を持つマウスの半数が発表された治療法を受けた後にがん細胞が消えたそうです。研究チームの一員でライス大学のジェームス・ツアー教授はこの方法を「分子ジャックハンマー」と呼んでいます。


研究チームの一員であるアヤラ・オロスコ氏は「私たちが特定した分子プラズモンは、片側に腕を持つほぼ対称的な構造をしています。この腕はプラズモンの運動には寄与しませんが、分子を細胞膜の脂質に固定するのに役立ちます」と解説しています。


がん細胞を物理的に破壊する方法については、2016年にノーベル化学賞を受賞したバーナード・フェリンガ博士の考案した「フェリンガ型分子モーター」と可視光を使った方法があります。しかし、この分子ジャックハンマーは、フェリンガ型分子モーターよりも100万倍速く処理を行えるそうです。

また、フェリンガ型分子モーターは可視光線を必要としますが、可視光線は体内の深さわずか5mmまでにしか届かないのに対し、近赤外光は体内の深さ10cmにまで届くとのこと。そのため、外科手術でも除去が困難な骨や臓器などのがんに対して、周辺組織を損傷することなく治療できる可能性が期待されます。

オロスコ氏は「今回の研究で発見された分子ジャックハンマーは、分子スケールで機械的な力をつかってがんを治療する新しい方法です」と述べ、アミノシアニンと同じような効果を持つ分子の検討を今後の研究課題に挙げています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
モデルナのmRNAがんワクチンと抗体医薬品「キイトルーダ」の併用で悪性黒色腫の再発・死亡リスクが半減 - GIGAZINE

遺伝子編集技術「CRISPR」を使ってがん細胞を健康な細胞に再プログラムすることに成功 - GIGAZINE

すべてのがん腫瘍細胞を殺せる画期的な分子「AOH1996」の前臨床試験に成功、ヒトを対象にした臨床試験も進行中 - GIGAZINE

毛虫の毒は細胞に穴をあける、研究が進めばがん治療薬などの創薬分野で役立つ可能性 - GIGAZINE

治療用「がんワクチン」実現の可能性や課題について専門家はどう見ているのか? - GIGAZINE

体内でがん細胞はどのように処理されているのか? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article A method is discovered that can destroy ….