サイエンス

すべてのがん腫瘍細胞を殺せる画期的な分子「AOH1996」の前臨床試験に成功、ヒトを対象にした臨床試験も進行中


アメリカの著名ながん治療センターであるシティ・オブ・ホープの研究チームが、がん腫瘍細胞の増殖細胞核抗原(PCNA)を標的にする分子「AOH1996」のマウスを用いた前臨床試験に成功したと発表しました。AOH1996はがん細胞のDNA複製において重要な役割を持っているPCNAを標的にする薬剤であり、がん腫瘍細胞を全滅させられる可能性があると期待されています。

Small molecule targeting of transcription-replication conflict for selective chemotherapy: Cell Chemical Biology
https://doi.org/10.1016/j.chembiol.2023.07.001


City of Hope scientists develop targeted chem | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/997141

A New Mode of Cancer Treatment | Science | AAAS
https://www.science.org/content/blog-post/new-mode-cancer-treatment

がん細胞は正常な細胞の遺伝子に生じた異常により、正常な範囲を超えて自律的に分裂や増殖を繰り返し、体組織にさまざまな悪影響を及ぼします。がん患者に対しては抗がん剤や免疫療法などの治療が行われますが、がん細胞は変異することによって治療への耐性を獲得し、再発を繰り返すことがあります。


シティ・オブ・ホープの分子診断・実験治療学部の教授であるリンダ・マルカス博士は20年にわたり、がん細胞のDNA複製および修復において必要不可欠なタンパク質・PCNAを標的にする「AOH1996」と名付けられたがん治療薬の開発を行ってきました。PCNAはあらゆる細胞に存在するため、正常な細胞ではなくがん細胞のPCNAのみを標的にする薬物が開発できた場合、多くのがん細胞に対して効果的な治療薬になる可能性があるとのこと。

研究チームが70種以上のがん細胞株と対照となる正常な細胞でAOH1996の抗がん活性をテストしたところ、AOH1996はがん細胞の生殖周期を乱し、がん細胞を選択的に殺すことが確認されました。AOH1996はがん細胞がDNAを複製・転写するのを防ぎ、がん細胞のアポトーシスを引き起こした一方で、正常な幹細胞の生殖周期は乱さなかったとのことです。

また、神経芽細胞腫・乳がん・小細胞性肺がんのいずれかに由来するがん腫瘍を持つマウスを対象にした実験では、毎日AOH1996を投与したマウスの体内では対照群と比較して腫瘍が有意に減少することがわかりました。AOH1996を投与されたマウスでは、副作用による死亡や体重減少などもみられませんでした。


マルカス氏は、「PCNAは複数の搭乗口がある主要な航空会社のターミナルハブのようなものです。データはがん細胞においてPCNAが特異的に変化していることを示唆しており、この事実によってがん細胞のPCNAのみを標的にする薬剤を開発することができました。私たちの抗がん剤は主要な航空会社のハブを閉鎖し、がん細胞を運ぶすべてのフライトだけを欠航させる吹雪のようなものです」とコメントしました。

すでにシティ・オブ・ホープは、ヒトのがん患者にAOH1996を投与して安全性や効果を確認する第I相臨床試験を実施しています。被験者は標準的な治療が効かない成人のがん患者であり、1日2回の頻度でピルの形でAOH1996を服用するとのことです。

Cancer Center Announces First Patient Has Received City of Hope’s Novel, Potentially Cancer-Stopping Pill | City of Hope
https://www.cityofhope.org/cancer-center-announces-first-patient-has-received-city-hopes-novel-potentially-cancer-stopping

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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