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「ホビット」の人口はどれくらいいたのかファンタジー世界を人口統計した結果とは?


J・R・R・トールキンの「ホビットの冒険」「指輪物語」などの舞台となる架空都市「中つ国」には、身長が60cmから120cmほどでとがった耳と太った体を持つ架空の種族「ホビット」や、長命種のエルフ、巨大なオークや技術力の高いドワーフなど、後の多くのファンタジー作品に影響を与えたさまざまな種族が登場しています。しかし、トールキンは作中でそれぞれの種族はどれくらいの人口規模があるかなどを明らかに示していないため、熱心なファンはしばしば種族の分布や人口について議論しています。経済学者でブロガーのライマン・ストーン氏は、トールキンの人口統計分析を新しいアプローチで行うことで、ホビットをはじめとする人口を推定するアイデアを解説しています。

How Many Hobbits? A Demographic Analysis of Middle Earth | by Lyman Stone | Dec, 2023 | Medium
https://medium.com/@lymanstone/how-many-hobbits-a-demographic-analysis-of-middle-earth-cd53b91d141f

How Many Hobbits? Middle Earth Population by People Group | by Lyman Stone | Dec, 2023 | Medium
https://medium.com/@lymanstone/how-many-hobbits-middle-earth-population-by-people-group-60c5c9d0c5b1

トールキンは作中で人口について明らかにすることはほとんどありません。集落が描かれても規模はほとんど示されないほか、中つ国の大都市は一部のエリアが描かれるのみで全体像は示されませんでした。それにもかかわらず、熱心なトールキンファンは可能な限り都市規模や人口などの数字をまとめようと試みています。そのうちの有名な一人として知られるスティーブン・ウィグモア氏は、「ホビットの冒険」に登場する土地や人口の考察のほか、中つ国におけるエルフの歴史や人口推計についてブログに投稿しています。

ストーン氏は、ウィグモア氏を中心にトールキンファンによる考察の多くは、「軍隊の規模」から人口を推定していると指摘しています。トールキンが明確な数字として提供している数少ない要素が軍隊であり、現実世界でも軍隊の人数から人口を推定する計算を行うことがあります。これをふまえて、ストーン氏は軍隊からの推定に加えて「地理的なアプローチ」をすることで、中つ国およびホビットの人口について推定値を計算しています。なお、トールキンの物語には「第一紀」から「第四紀」まで時代区分が描かれていますが、ストーン氏は主に「ホビットの冒険」や「指輪物語」の舞台となっている「第三紀」の人口について言及しています。


地理的なアプローチとして、ストーン氏はまず中つ国を「正常に人間社会が生きていける地域であり、西暦1200年頃のヨーロッパ社会と同様の人口統計と農業規則に基づいて統治されていた」と仮定しています。まず中つ国を認識可能な地域に分割し、気候や地理、水へのアクセスなど、人口に関連する特徴に従って各地域を分類しました。次に、中世の人口密度について現代の学術的推定値から導き出された密度を使用して、地形の組み合わせに基づいて各地域に人口密度を割り当てています。

人口密度の推定の結果、ストーン氏は以下のようなグラフを示しています。このモデルでは、ロサルナッハという都市では1平方マイル(約2.6平方キロメートル)あたり約71人が存在しています。これは実際の中世の国々より高い数値となっていますが、ロサルナッハは都市周辺にある小さい国のため、高い人口密度となりました。


同様の人口密度分布を、地図上にヒートマップで示したものが以下。色が濃いほど人口密度が高い地域となっています。


この人口密度に基づき中つ国全体の人口を求めたところ、「約2600万人」という推定値をストーン氏は出しています。これは「中つ国が、生存資源に関して中世ヨーロッパと同じようなパターンで人口を集めていたとしたら」という仮定に基づくものとなっており、過去に他のトールキンファンが推定した「300万人」という数字より、かなり多い推定値となっています。

次に、中つ国の種族分布を考える必要があります。中つ国には人間と同じように社会を形成して生活する種族として、エルフ、ドワーフ、ホビット、オークが存在しています。それぞれの特徴として、トールキン作品におけるエルフは不老不死で、ほとんど食事を必要としない一方で、繁殖力が低く、人口密度の低い生活を好むとされています。また、ホビットは小柄ですが食欲旺盛のため、人間と同じ程度の土地を必要とするはず。しかし、ホビットは主に地下で生活するため、利用可能な土地が単純な面積より多くなります。ドワーフの生態はあまりわかっていませんが、かなり局地的な分布と考えられるため、ストーン氏の推定には大きな影響を与えていません。


人口規模を推定するためにしばしば用いられる「軍隊の規模」についても、ストーン氏は言及しています。トールキンは作中で土地の広さや人口の規模を明らかにすることはほとんどありませんが、軍隊の規模に関してのみ、「フルタイムの職業兵士と衛兵で5000人弱」「追加の召集でさらに5000人弱の兵士」と描写があります。その他、ペレンノール野の合戦では最大1万5000人のオークがいたり、中つ国第三紀に起きたドワーフとオークの戦争では2000人のエルフや700人程度のドワーフ、9000から1万5000人ほどのゴブリンが参加したと読み解くことが可能。

これらの軍隊に関する数値から、ウィグモア氏は「騎士の数×8+歩兵の数×4=壮年期の男性人口」という計算式を示しました。ここから、壮年期の男性が人口の3分の1程度だと仮定すると、軍隊の規模から「兵士1人当たり民間人16人」「中つ国の王国・ローハンの人口は約60万人」と導き出すことができます。ストーン氏はこの計算式について、中世の主要な戦争を調べ、軍隊の規模と人口を比較することで、軍隊と人口の比率の正しさを検証しています。

実際の戦争から検証した結果が以下の表。表の一番右にある「兵士1人当たりの人口」について、平均すると「60~120」となっており、これに基づくとウィグモア氏が計算した「兵士1人当たり民間人16人」という数値は「もっともらしい範囲内だが低すぎます」とストーン氏は指摘しています。ただし、ストーン氏が調べたのは少数の有名な戦争のみで、極端な例などは考慮に入れていません。


同様の計算で、ゴンドールという王国の人口は100万人程度、エルフの領域には5万2000人のエルフが住んでいるとストーン氏は導き出しています。全体的に、ウィグモア氏や他の従来の推定に比べてかなり多い人口をストーン氏は想定しています。

ストーン氏による地理的アプローチでは説明できない重要な要素の1つが「その土地の歴史的事情」です。トールキンの作品では、巨大なクモや邪悪なオーク、トロール、疫病、盗賊といった「人口減少への圧力」がしばしば登場します。そこでストーン氏は地理的な推定値に「人口減少変数」を追加することで、ある程度恣意(しい)的にはなるものの、作中の描写を可能な限り拾った人口減少率を適用しました。結果として、中つ国の人口密度ヒートマップは以下の画像のように変化し、最初の推定値である「約2600万人」から「約760万人」まで推定値が減少しています。


中つ国に住む人間およびエルフ、ドワーフ、ホビットの総人口を約760万人と結論付けた上で、ストーン氏はさらにそれぞれの種別ごとの人口を分析することで、「ホビットは何人くらいいたのか?」という疑問に回答しています。ストーン氏が中つ国の地図上に示したホビットの個体群は以下の通り。「ホビットの里」とも呼ばれる地域の「シャイア」にはほとんどのホビットが集まっており、約18万人という推定値をストーン氏は示しています。残りの約2万人は各地に点在しており、中つ国全体で20万人弱のホビットがいたと考えられるとのこと。


エルフについては、中つ国の北西部全体で約29万6000人がいるとストーン氏は推定しています。ウィグモア氏や他の考察者は「第一紀の中つ国には約200万人のエルフがいた」と推定していますが、第三紀までに85%が減少して、約30万人まで衰退したとストーン氏は主張しています。ストーン氏によるエルフの分布が以下。主に4つの地域に大きな集団がおり、その他コミュニティから離れた小さな隠れ家が点在しています。


ドワーフは最も少数のグループで、総数が約11万人、その半数が地下都市のドワーフ王国「エレボール」に住んでいます。第三紀のドワーフ人口については、ドワーフとオークの戦争である「アザヌルビザルの戦い」とその後のドワーフ軍の数を参考に算出されました。アザヌルビザルの戦いでは、ドワーフがオークの軍勢を「ほぼ完全に破壊」して、約1万人の死傷者を出したことがわかっています。両者のパワーバランスから、1万人のオークを倒すには6000人程度のドワーフが戦力として必要であり、軍隊の半分を失ったドワーフは、3000人の戦力を保持していたとわかります。この3000という数値が第三紀3019年の軍隊の推定値とほぼ一致するため、ここから軍隊と人口の比率を考えると、ドワーフの総人口を推定できます。以下の地図の右上にある大きなコミュニティがエレボールで、左端の2番目に大きいコミュニティはかつてドワーフが主な拠点としていたフォーリンドンです。


人間は、約700万人と人口が群を抜いて多く、中つ国北西部にほぼまんべんなく大きな集団が存在しています。ストーン氏は人間の人口について、全体の人口からホビット、エルフ、ドワーフを引いた残数として算出しています。


人間やホビット、エルフ、ドワーフに加えて、オークやゴブリンという知的種族も中つ国には存在しています。オークやゴブリンの数は他の種族ほど作中に明確なヒントがありませんが、さまざまな戦争における軍隊の描写から、オークとゴブリンを合計して50万から150万存在していると推測できます。最終的に、第三紀中つ国の「知的人口」は、「950万人から1100万人」とストーン氏は結論付けています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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