サイエンス

キッチンカウンターによく使われる人工石が死に至る病「珪肺症」を急増させるとしてオーストラリアが世界で初めて禁止を決定


見た目が美しい大理石はキッチンカウンターや床などの材料として人気ですが高価なため、代わりに石英を砕いて固めた人工石(クォーツストーン)がよく使用されます。ところが、人工石の加工に従事する労働者が珪肺症という致死的な病気を発症する事例が急増したため、オーストラリア政府は世界に先駆けて人工石の使用を禁止することを決定しました。

Australia makes world-first decision to ban engineered stone following surge in silicosis cases - ABC News
https://www.abc.net.au/news/2023-12-13/engineered-stone-ban-discussed-at-ministers-meeting/103224362


Crystalline silica and silicosis - Questions and answers about the impact analysis and consultation | Safe Work Australia
https://www.safeworkaustralia.gov.au/safety-topic/hazards/crystalline-silica-and-silicosis/questions-and-answers-about-impact-analysis-and-consultation

珪肺症は結晶シリカ(二酸化ケイ素)の粉じんを吸入することで発症する肺疾患であり、肺に慢性的な炎症や結節性病変が生じ、疲労感の増加・せき・胸の痛み・食欲不振・呼吸困難といった症状を引き起こします。特に数週間から数年間で大量の粉じんにさらされた急性珪肺症の場合は息切れや体重減少が急速に悪化して、2年以内に呼吸不全に陥って死に至ることもある危険な病気です。

以前から珪肺症は鉱山労働者や石切職人、サンドブラストなどを使う労働者の間によく見られる職業病として知られていましたが、20世紀後半には先進国における珪肺症による死亡率が大幅に減少しました。しかし、近年ではシリカを含む人工石を使ったカウンタートップを製造・設置する労働者の間で、再び珪肺症患者が増加しています。

2023年の研究では、2019年~2022年に珪肺症と診断されたカリフォルニア州のカウンタートップ加工者52人の症例を分析し、11人が肺移植を必要とするほどの重症となり、少なくとも10人が死亡していることがわかりました。多くの人工石には90%以上の割合でシリカが含まれており、作業中に粉じんを吸入して珪肺症を発症するリスクが高いとのこと。


カウンタートップや洗面化粧台などに使われる人工石が原因で珪肺症になる労働者が急増する状況を受けて、オーストラリア政府は連邦・州・準州の会議で、人工石の使用を全国的に禁止することに全会一致で同意しました。禁止措置は2024年7月1日からほとんどの州と準州で開始され、今後は取り締まりを強化するために輸入された人工石の禁止についても検討するとのこと。

労働組合や保健機関、人身傷害法律事務所などは、今回の禁止令が労働者の命を救うとして歓迎しています。オーストラリア労働組合評議会のリアム・オブライエン書記補佐は、「人工石はそれを製造する労働者を殺しているファッション製品です。代替品が簡単に手に入るのに、なぜ私たちはキッチンをファッショナブルに仕上げるために、職人の命を危険にさらす必要があるのでしょう?」と述べました。


人工石による珪肺症の増加に警鐘を鳴らしてきた医師の1人であるライアン・ホイ氏は、珪肺症は働き盛りの若い男性を襲っていると指摘し、「珪肺症の人の中には、非常に重度の病気になっている人もいます。息切れがひどくなり、普通の日常生活を送ることも難しい状態です」と述べています。2015年以降、オーストラリアでは珪肺症の症例が数百件も報告されており、労働組合は人工石が「2020年代のアスベスト」になる可能性があるとして、人工石の使用禁止を求めるキャンペーンに加わりました。

オーストラリアの建設・林業・海事従業員組合(CMFEU)のザック・スミス氏は、全国的な人工石禁止令を評価し、「これは人工石製品の使用を余儀なくされた数千人もの労働者にとって重要な勝利です。明確にしましょう、今日さまざまなレベルの政府が下した決定は、人々の命を救うものです」と述べています。


一方で、大手人工石メーカーであるシーザーストーンは、この決定に「深く失望しています」と反応しました。広報担当者は、人工石だけを禁止しても職場における珪肺症のリスクを排除することはできないとして、「最も重要なのは、珪肺症の発症率が上昇する本当の原因の、安全基準の遵守と施行の不備に対処していないことです」と主張しています。

また、業界には人工石の代替品への移行期間として6カ月間の猶予期間が定められていますが、シーザーストーンはこの期間だと建設・住宅業界への「重大な混乱」を回避するのに十分ではないと指摘。広報担当者は、「業界が予想される代替製品の需要を確実に満たし、必要な財源を持つ加工業者が他の製品に切り替えるために従業員を再編成・再教育できるようにするには、より長い期間が必要です」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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