サイエンス

培養したヒトの脳組織を使ってコンピューターを構築することに成功、日本語の音声認識にも対応


人間の幹細胞を基に作られた脳オルガノイド(ミニ脳)を電子チップに接続した「ブレイノウェア」と呼ばれるセットアップを構築して、簡単な計算タスクを実行することに成功したことが、インディアナ大学ブルーミントン校のエンジニアであるフェン・グオ氏らの研究チームによって報告されました。

Brain organoid reservoir computing for artificial intelligence | Nature Electronics
https://www.nature.com/articles/s41928-023-01069-w


Scientists Built a Functional Computer With Human Brain Tissue : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-built-a-functional-computer-with-human-brain-tissue

人間の脳には、約860億個ものニューロンと、数兆個のシナプスが存在することが分かっています。1つ1つのニューロンは最大で1万個もの別のニューロンに接続しており、互いに通信しあっています。近年では、そんな脳の構造や仕組みに着想を得たハードウェアやアルゴリズムの設計や開発に科学者やエンジニアは取り組んでおり、高度な生物学的システムに基づくコンピューターの構築を試みています。

グオ氏らの研究チームは、実験室で培養した脳オルガノイドに「リザーバーコンピューティング」と呼ばれる人工ニューラルネットワークの一種を利用した電極を接続。電極を通じて送られた電気信号で情報を脳オルガノイドに送り、脳オルガノイドがその情報を処理、神経活動データという形で計算結果を出力します。研究チームは一連のシステムを「ブレイノウェア」と呼んでいます。


研究チームが構築したブレイノウェアに電気信号を与えると、ブレイノウェアはその信号に反応し、神経活動データを出力しました。研究チームは「今回の実験結果は、ブレイノウェアが実際に情報を処理し、人間による監視なしで計算タスクを実行できる可能性を示すものです」と述べています。

以下はブレイノウェアに用いられた脳オルガノイドの1つと、スキャンされた神経活動の一例です。


研究チームはさらに、ブレイノウェアの有用性を示すために、8人の被験者に日本語の母音を発音してもらって録音した音声クリップ240個を使用して、ブレイノウェアが特定の1人の声を識別できるかのテストを行いました。電気信号に変換され送られてきた音声クリップの処理を行ったブレイノウェアは信号を出力。AIを用いて出力した信号の分析を行うと、わずか2日間のトレーニングだったにもかかわらず、ブレイノウェアは約78%の精度で話者を識別することに成功しました。一方でグオ氏はAIで動作する純粋なハードウェアコンピューターよりも精度が劣ることを指摘しています。

それでもグオ氏は「今回の実験結果は、脳オルガノイドをコンピューティングに使用する最初のデモンストレーションです。将来のバイオコンピューティングにおける、脳オルガノイドの可能性を確かめることができました」と述べています。

ジョンズ・ホプキンス大学のレナ・スミルノワ氏やブライアン・カフォ氏らは「脳オルガノイドを用いたシステムの高度化が進むにつれ、無数の倫理的な問題が発生するでしょう、この技術をさらに拡大する際には、倫理的配慮を念頭に置いておくことが極めて重要になります」と指摘する一方で、「この研究は、学習のメカニズムや神経発達、神経変性疾患の認知的影響に関する基礎的な洞察を生み出す可能性が高く、また新しい治療法をテストするためのモデルの開発にも役立つ可能性があります」との期待感を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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