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中東上空を飛ぶ民間航空機が「想像を絶するGPS攻撃」を受けており意図しない領空侵犯などの危険にさらされている


航空会社への安全指針を提供しているOPSGROUPが2023年9月下旬、中東上空を飛行する民間航空機が位置情報を偽装したGPS信号を受信し、ナビゲーションシステムが故障してしまう事態が相次いで発生したと報告しました。この攻撃は悪化の一途をたどっており、民間航空機が意図せず領空侵犯する危険などにさらされているとのことです。

GPS Spoofing: Pilot QRH – Hotspots and What To Expect – International Ops 2023 – OPSGROUP
https://ops.group/blog/gps-spoofing-pilot-qrh-hotspots-and-what-to-expect/


Commercial Flights Are Experiencing 'Unthinkable' GPS Attacks and Nobody Knows What to Do
https://www.vice.com/en/article/m7bk3v/commercial-flights-are-experiencing-unthinkable-gps-attacks-and-nobody-knows-what-to-do

9月下旬に、イラン近郊の上空を飛行した複数の民間航空機が、未知の発信元からの位置情報が偽装されたGPS信号を受信しました。これにより、航空機が実際の位置から離れた場所を飛行しているかのように航行システムが勘違いし、現在位置を見失ってしまったとのこと。被害を受けたうちの1機は、危うくイラン領空に無断で侵入するところだったそうです。


OPSGROUPは11月の報告で、一連のGPS攻撃による被害はイラクのバグダッド、エジプトのカイロ、イスラエルのテルアビブの3地域に集中しており、9月下旬からの5週間で50件以上の事例を追跡したと述べています。

GPS信号を操作して偽の位置情報を表示させる「GPSスプーフィング」という手法自体は以前から存在していましたが、これを航空機の航行システムを破壊する攻撃として用いる事例はこれまでになく、航空電子工学の設計における根本的な欠陥を露呈するものだと指摘されています。偽のGPS信号による位置情報のなりすましは、ジャイロスコープや加速度計などを利用して航行を支援する慣性基準装置(IRS)を破壊し、航空機の航行システムを機能不全に陥らせるとのこと。

OPSGROUPは、「これは想像を絶するもののように聞こえます」「IRSはなりすましができないスタンドアローンのシステムであるべきです。機内に搭載されたナビゲーション機能をすべて失い、航空管制官に自分の位置を尋ねて方角を指示してもらわなければならないという事態は、特に最新の航空電子システムを搭載した最新機にとって、ほとんどあり得ないとされています。しかし、複数の報告書でこのような事態が起きていることが確認されています」と述べています。


衛星通信を研究するテキサス大学オースティン校のトッド・ハンフリーズ教授は、以前から中東地域ではGPS信号を妨害する攻撃が頻繁に起きていたものの、GPSスプーフィングを利用した航空機の妨害は新しいものだと指摘しています。ハンフリーズ氏によると、これまで違法漁船などが用いてきたGPSスプーフィングではGPS信号のデータが不十分であり、位置情報の偽装というよりGPSサービスの拒否を目的としていたとのこと。

ハンフリーズ氏は、「GPSとIRS、およびそれらの上長バックアップは、現代航空機のナビゲーションシステムの主要コンポーネントです。GPSの読み取り値が破損していると、飛行管理システムが誤った航空機の位置を推定したり、合成ビジョンシステムが誤ったコンテキストを表示したりします」と述べ、一連のGPS攻撃がもたらす影響は非常に大きいと警告しています。

一般的なGPSジャミングと今回のGPSスプーフィングによる攻撃が異なるのは、GPSジャミングは単にGPSの機能を妨害するだけである一方、GPSスプーフィングはバックアップとなるIRSにも影響するという点です。ハンフリーズ氏は、「これは、GPSが故障した場合に推測航法のバックアップとして機能するIRSが、GPSスプーフィングに直面した場合はまったくバックアップにならないことを示しています。なぜなら、なりすまされたGPS受信機がIRSを破壊し、IRSが間違った位置を基準に計算するからです」と述べています。

記事作成時点では、GPSスプーフィングによるナビゲーションシステムの故障に対する解決策はなく、業界は対応策を見つけようとしているところだそうです。異常に気づいた航空機の乗務員は陸上の航空管制官に頼ることしかできず、これはスケーラブルな解決方法ではありません。

ハンフリーズ氏は、「GPSスプーフィングは、航空システムに対するゼロデイエクスプロイトのように機能します。航空業界はこれに対してまったく準備ができておらず、無力です」と述べました。


一連のGPSスプーフィングの背後にいる組織や国家が何なのかは不明ですが、ハンフリーズ氏は「地球の低軌道上にある複数の宇宙船による生のGPS測定を使用して、私が指導教官を務める学生のザック・クレメンツ氏は先週、なりすまし信号のソースをイラン・テヘランの東あたりだと特定しました」と述べています。

この地域でGPSスプーフィングを行っているのはイランだけでなく、クレメンツ氏はイスラエルとハマスの激しい軍事衝突が起きた後、イスラエルもGPSスプーフィングを行っていることを確認しました。イスラエルはテロリストからのミサイル攻撃を妨害するためにGPSスプーフィングを行っているようですが、その過程で民間人や民間航空機に被害が出る可能性も指摘されています。クレメンツ氏によると、イスラエルは同国に着陸するパイロットに対し、GPS以外の方法に頼って着陸するよう警告したそうです。

ハンフリーズ氏は、「10月15日頃からイスラエル上空で見られる強力でしつこいなりすましは、ほぼ間違いなくイスラエル自身によって行われています」と述べています。しかし、その直前にイラン近郊で初となる民間航空機に対するGPSスプーフィングを用いた攻撃が確認されたことと、どのような関係があるのかは不明だと説明しました。

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in 乗り物,   セキュリティ, Posted by log1h_ik

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