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経済制裁が続くロシアにヨーロッパ製マイクロチップを輸入するための仕組みとは?


ウクライナ侵攻などで国外からの製品の輸入が規制されているロシアでは、アメリカやヨーロッパで製造されたマイクロチップの輸入も同様に制限されています。しかし、ロシアではヨーロッパ製のマイクロチップが秘密裏に輸入されており、海外メディアのFinancial Timesは、ロシアのマイクロチップ密輸に携わる人物であるマキシム・エルマコフ氏について紹介しています。

The shadowy network smuggling European microchips into Russia
https://www.ft.com/content/e70467d7-9df2-4a8c-9d0f-ddc61062b745


フランスの半導体製造企業Ommicなどが製造するマイクロチップは、高性能窒化ガリウムや、ガリウムヒ素集積回路基板など特殊な技術が用いられており、Istokをはじめとするロシアの軍需メーカーにとって不可欠な製品です。また、国内でのマイクロチップ製造技術が西側諸国やアジア諸国に対して後れを取っているロシアは、外国製部品の調達を長年行ってきました。

一方で、2022年からウクライナへの侵攻を開始したロシアに対しては、アメリカをはじめとする西側諸国がこれまで行ってきた経済制裁をより強化したため、ロシアでは国外製のマイクロチップなどの調達がより困難になりました。そこでロシアは自国の諜報機関員に対し、輸出規制をかいくぐるためのネットワークを構築するように指示していたとのこと。

その中でもエルマコフ氏は、1990年代からアイルランドやフランス、ドバイ、ドイツなどでマイクロチップの取引に関するネットワークを構築していました。Financial Timesによると、エルマコフ氏は国外のビジネスパートナーから調達したマイクロチップを、国営テクノロジー企業であるIstokに流していたとされています。また、アメリカ国家安全保障会議の元戦略貿易・不拡散局長であるトーマス・クルーガー氏は「エルマコフ氏らはマイクロチップ取引のためのフロント企業を立ち上げ、国外のメーカーとの取引を行うことでロシア国内にマイクロチップを届けているようです」と語っています。


Ommicは2004年から、Istokとマイクロチップに関する取引を行っていましたが、2014年のロシアによるクリミア侵攻以降、西側諸国での経済制裁が強まり、Istokとの直接的な取引が打ち切られました。Istokという大手の取引相手を失ったOmmicは、大きな経済的な損失が発生しました。そこでOmmicは、アラブ首長国連邦に拠点を持つ「Amideon Systems」という企業にチップを出荷。Amideon SystemsはIstokのフロント企業とされる「Fly Bridge」と契約を結び、Ommic製のマイクロチップの取引を行っています。

Amideon SystemsからFry Bridgeに流れたマイクロチップは2018年までに、460万ドル(約7億円)相当とされています。これらの三者間での取引を指導したのはエルマコフ氏とされています。実際にエルマコフ氏は2014年までFry BridgeのCEOを務めていました。Financial Timesによると、フロント企業を用いてチップの取引を行うことの目的は、商品の最終的な買い手を偽装することで、西側諸国の政府当局による取引に関する追跡を困難にするためとのこと。


ロシアに対する経済制裁が厳しくなった2018年以降は、Ommic製のマイクロチップはより複雑なルートでロシアに密輸されるようになり、一部のOmmic製チップは中国やインド経由でロシアに送られていたとされています。

しかし、フランス警察による調査の結果、Ommicは2023年3月にフランス政府による株式差し押さえ処分を受け閉鎖されました。これに伴い、Amideon Systemsとの取引も停止され、Fry BridgeがOmmic製のマイクロチップを入手することは不可能になりました。Financial Timesは「2021年の1年間だけで1万3500個以上のマイクロチップが偽造された通関書類を使ってロシアに送られたとされています」と報告しています。

Ommic製のマイクロチップを入手することが不可能になったエルマコフ氏ですが、Financial Timesによると、エルマコフ氏は記事作成時点でも水面下で活躍しているとのこと。ウクライナ侵攻が開始されて以降、Istokは軍需品の在庫を管理するためのまったく新しいシステムなど、ロシア軍向けの新たな機器を製造しているとされています。そのためにエルマコフ氏らのFry Bridgeはハイエンドな電子機器を製造するための特殊な機材を輸入しているとのこと。


タフツ大学フレッチャー・スクールのクリス・ミラー教授は「エルマコフ氏らが構築している密輸ネットワークは、フロント企業という使い捨ての会社を利用することで、そのフロント企業が特定され、制裁を受ける前にエルマコフ氏らは倒産させて、新たなフロント企業に業務を移行することが可能です。西側諸国の諜報機関にとって、このネットワークはイタチごっこのようなものです」と指摘しています。

それでも、アメリカやイギリス政府はエルマコフ氏に対して、ロシアによる戦争に加担した容疑で大規模な制裁を発令しており、銀行や保険会社、交通会社に対し情報提供を行っています。

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in ハードウェア, Posted by log1r_ut

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