サイエンス

地球の内部に古代の惑星衝突の巨大な残骸が2つもあることが判明、「月」の形成にも関係か


地球の深部には月の2倍のサイズの巨大な物質の塊が存在します。この巨大な物質の塊について調査したアリゾナ州立大学の研究者が、これは太古の地球に衝突した惑星の残骸であることを発見しました。

Moon-forming impactor as a source of Earth’s basal mantle anomalies | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06589-1


ASU researchers discover Earth's blobs are remnants of an ancient planetary collision | ASU News
https://news.asu.edu/20231101-asu-researchers-discover-earths-blobs-are-remnants-ancient-planetary-collision

1980年代、地球物理学者は驚くべき発見をしました。その発見は「地球の中心近くの深部に大陸ほどの大きさの珍しい物質の塊が2つ存在する」というものです。この物質の塊の1つはアフリカ大陸の地下に存在しており、もうひとつは太平洋の地下にあります。


過去10年間の研究で、それぞれの塊は月の2倍ほどのサイズがあり、周囲にあるマントルとは異なる割合の元素で構成されている可能性が高いことも判明しました。なお、この月の2倍もある物質の塊は「LLSVP」と呼ばれています。

このLLSVPがどこから来たのかを調査する最新の研究において、LLSVPは数十億年前に起きた惑星の衝突で発生した残骸である可能性が指摘されています。LLSVP形成の謎について調査したのはアリゾナ州立大学地球宇宙探索学部の研究チームで、チームを率いたのはアリゾナ州立大学の卒業生でありカリフォルニア工科大学の博士研究員でもあるQian Yuan氏。論文は2023年11月1日に学術誌のNatureに掲載されています。


科学者は1980年代から地球の深部に異常な組成で起源不明の巨大な塊であるLLSVPの存在を認識していました。LLSVPは非常に巨大であり、これを地球の表面に配置すると約60マイル(約100km)もの厚さの層ができてしまうそうです。

月は地球とテイアという小さな惑星が衝突した際の余波で誕生したという仮説が立てられていますが、小惑星帯や隕石からテイアの痕跡は発見されていません。しかし、Yuan氏ら研究チームによると、テイアの大部分は太古の地球に吸収され、LLSVPを形成した可能性がある模様。そして、テイアの衝突により発生した断片が、月を形成した可能性があるとも指摘されています。

アリゾナ州立大学の地球宇宙探査学部のSteven Desch教授は、「月の内部には、衝突前の地球とテイアの両方を表す物質が含まれているようですが、地球にあるテイアの残存物は何十億年にもわたる地球内部の力学(マントル対流など)によって『消去』されてしまい、均質化されたものと考えられていました。そのため、我々の研究はテイアの『かけら』が今も地球の核とマントルの境界に存在していることを論証する、最初の研究です」と述べました。


研究者は地球を伝わる地震波を測定することで、LLSVPを発見しました。地球の深部にあるLLSVPは鉄含有量が異常に高いため、地震波の通過を非常に遅く伝達します。そのため、1980年代でも地球の深部に「巨大な物質構成の異なる塊」が存在することが認識できたそうです。

研究に参加したEd Garnero教授は、「地球の中に存在する塊は、私たちの月を形成した惑星の衝突の残骸であるようです。言い換えれば、現在の地球内部、我々の足元奥深くにある巨大な塊は地球外からやってきた物質というわけです」と述べました。

研究チームを率いたYuan氏は「月には比較的多くの鉄が含まれている」「月の形成の原因となった地球に衝突したテイアの痕跡が見つかっていない」という話を聞いた際に、LLSVPがテイアの残骸により形成されている可能性を思いついたそうです。

研究チームはテイアの化学組成と地球への影響についてさまざまなシナリオをモデル化しました。その後、各モデルをシミュレーションしたところ、テイアが地球に衝突したあとにLLSVPと月の形成の両方につながった可能性があることが示されています。


テイアがLLSVPと月に分かれるケースは、シミュレーションにより明らかになっています。シミュレーションによると、テイアが地球に衝突した際に発生したエネルギーの多くがマントルの上半分に残り、地球の下半分にあるマントルは当初の推定よりも低温なままとなり、完全に溶けることはなくテイア由来の鉄分豊富な物質がLLSVPとして残った可能性がある模様。

さらに、マントル対流のシミュレーションを行うことで、テイア由来の鉄含有率の多い物質が地球のマントルの中に沈み、蓄積する可能性があることも明らかになっています。研究に参加したアリゾナ州立大学のMingming Li教授は、「テイア由来の物質が約45億年間にわたり地球のマントルに留まる可能性は十分にある」と言及しました。

研究の共著者のひとりであるTravis Gabriel氏は、「月の外側ではなく、地球の内側に目を向けることで月を形成する巨大衝突という太古の宇宙で起きた大惨事の痕跡を発見することができました」と述べています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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