サイエンス

「日本の研究はもはやワールドクラスではない」と科学誌のNatureが指摘


科学誌のNatureが「日本の研究はもはやワールドクラスではない」と言及し、なぜ日本の研究の質が低下しているのかを、データを交えて解説しています。

Japanese research is no longer world class — here’s why
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03290-1


2023年10月25日に日本の文部科学省が公開した報告書によると、日本は世界最大級の研究コミュニティを有しているにもかかわらず、ワールドクラスの研究に対する日本の貢献度は低下し続けているそうです。

文部科学省に置かれている研究機関のひとつである科学技術・学術政策研究所の科学技術予測・政策基盤調査研究センター長である伊神正貫氏は、「現在の日本の研究環境は理想とはほど遠く、持続不可能です。研究環境を整えなければいけません」と述べ、日本が世界的な地位を向上させるためには研究環境を整えることが必要であると強調しています。

文部科学省の報告書によると、日本の研究者数の合計は中国、アメリカに次いで世界第3位となっています。しかし、日本の研究者は20年前と同じレベルの影響力の高い研究を生み出せていません。最も多く引用された論文の上位10%に入る日本の研究論文の世界シェアは、6%から2%にまで低下しており、国際的な地位の低下に対する懸念が高まっています。

以下のグラフは2019年から2021年にかけての各国の論文発表数をまとめたグラフ。日本の研究者が発表した論文数は世界で5番目に多いですが、引用数で上位10%に入る研究論文の数は、13位にまで落ちます。


伊神氏は「日本の研究者の生産性が低下したわけではなく、他の国の研究環境が過去数十年で大幅に改善されました」と述べ、他国における研究環境の改善に日本が追いついていないと指摘しています。

日本の研究が世界と比較して貢献度を落としている理由について、伊神氏は「過去20年間で大学部門の研究支出がアメリカとドイツで約80%、フランスで40%、韓国で300%、中国で900%以上増加しているのに対して、日本の支出は10%しか増加していません」と指摘。


しかし、研究者がより多くの資金を受け取ったとしても、日本の科学者は実際の研究に費やす時間が少ないため、影響力の高い研究を生み出すのは依然として難しい可能性があると伊神氏。文部科学省の2020年の分析によると、大学の研究者が科学研究に費やす時間の割合は2002年から2018年にかけて47%から33%にまで減少しています。

これについて、伊神氏は「大学の研究者は教育、業界とのコラボレーション、コミュニティとのかかわりにおいて多様な役割を担うことがますます期待されています。医学分野では、病院の収益を維持するために若手の研究者が臨床業務に多くの時間を費やしています。大学がさまざまな形で社会に貢献するメリットはありますが、研究に使える時間は限られてしまいます」と述べました。

文部科学省の調査結果は、仕事の不満の顕著な要因として研究時間の不足を挙げる若手研究者を対象とした過去の調査結果を裏付けるものであるとNatureは指摘。調査を実施した日本の豊橋技術科学大学の小野悠氏は、「外国人の研究室メンバーのためにビザの申請書類を作成したり、学生が期限までに家賃を支払っていないという貸主からの電話に対応したりと、主任研究者はあらゆることに対応しなければいけません」と述べ、日本の研究者はあまりに多くの管理業務に直面していると指摘。

以下のグラフは日本の科学論文発表数をまとめたもの。上のグラフが2008年から2010年、下のグラフが2018年から2020年にかけての発表数で、同期間に世界で発表された論文に占める日本の論文のシェアは6%から4%以下に低下しています。


日本学術会議で若手研究者の代表を務める東京大学の計算生物学者である岩崎渉氏は、研究者だけでなく事務スタッフや検査技師といったサポートスタッフの増員を訴えています。実際、日本の大学の研究者20人当たりの技術者数はわずか1人となっており、この数字は他国と比べて著しく低い水準だそうです。

日本の従来の研究室構造では、上級教員が研究の方向性とリソースを管理し、若手教員が補助的な役割を果たすことがよくあります。例えば、日本の新たな大学寄附基金の受領者として選ばれた東北大学は、より多くの若手研究者を主任研究者として任命することを約束しました。しかし、サポートスタッフがいないと、突然得た自主性が若手研究者にとって逆効果になる可能性があります。小野氏は自身が主任研究者に任命された時のことを振り返りながら、研究室を運営する経験がまったくなかったにもかかわらず、専門家のサポートを受けず、学生たちに自身の指示を頼りに研究を進めてもらいながら、自分自身の研究目標も達成しなければいけなかったと語っています。当時の経験について、小野氏は「圧倒的です。それに伴う不安は、長期的で大きな影響を与える研究を試みるには建設的ではありませんでした」と語っています。

伊神氏は、研究室のメンバーが年功序列の増加に苦労しているのを見ることが、若手研究者が研究分野でのキャリアを追及するのを遠ざけている可能性があると指摘。博士課程の学生の数は過去2年間で21%減少しているため、学部生や修士課程の学生よりも多くの研究経験を持つ博士課程の学生をより多く研究室に引き付けることは、日本にとってより大きな影響力を持つ研究を促進するために極めて重要である、と伊神氏は語りました。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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