サイエンス

科学者たちの生の声から分かった「科学が直面している大きな7つの問題」とは?


医学、心理学、環境学などの科学記事を掲載してきたニュースサイトVoxは、これまでの取材の中で、近年、科学者の多くが重大な疑問を抱えていることを感じたそうです。そこで、科学者たちはどのような問題に直面しているのかを調査するために、大学教授や研究室のリーダー、大学院生などあらゆる立場の研究者270人に対してアンケート調査を実施したところ、科学が7つの大きな問題に直面していることが分かりました。

The 7 biggest problems facing science, according to 270 scientists - Vox
http://www.vox.com/2016/7/14/12016710/science-challeges-research-funding-peer-review-process

◆1:資金調達の難しさ
研究活動を行うためにはお金が必要です。アメリカでは研究者は、自らの研究活動のために研究施設を借りたりアシスタントを雇ったりするための資金を調達する必要があります。たいていの場合、大学からの資金だけでは足りないので、外部から助成金を得る必要があります。


これは、アメリカの連邦科学基金における研究費助成を示したグラフ。退職する科学者よりも新しく誕生する科学者の数の方が多いため、慢性的な資金不足に陥っているとのこと。


国立衛生研究所における研究費の助成金申請の採択は、1997年に30.5%だったものが2015年には18.3%まで低下。助成金を得られにくい状況にあるそうです。


容易には獲得できない助成金ですが、たいていは3年間の援助の後、失効するものだとのこと。研究成果が出るまでに何十年もかかる研究も多く、短期的な資金しか調達できない体制下では、資金獲得に奔走する必要があり、安定的な研究をしにくいという指摘が挙がっています。研究時間の半分を助成金申請手続きに忙殺されてしまい、研究に専念できないという悲痛な声も上げられているのとこと。

◆2:研究成果の誇張
科学者・研究者の活動は、最終的には公開された研究論文によって判断されます。誰もが権威のある学術誌に掲載されたいと考えるため、センセーショナルな結果を求める傾向にありますが、大きな問題は、本当に画期的な研究成果はそんなに頻繁には起こらないということです。

データを分析し終わったあと、平凡な結果を得た場合のストレスはかなりのものだとのこと。そのため、何とかして意味のある結果にしたいという欲求は強く、データを都合良く切り取って、何らかの有意性が認められるように操作する「P値ハッキング」と呼ばれる手法を採る例が後を絶たないそうです。

また、「成果が出なかった」研究は「効果的な手法ではない」という知見を広く知らしめる点で科学的に大きな意義があるにもかわらず、いたずらに成果を求める風潮の中で、論文として公開されることは少ないとのこと。

さらに、ある研究によると、世界中の研究に費やされた総計200億ドル(約2兆円)もの資金が、貧弱な事前設計の下で行われた研究に使われており、最も影響力の大きなオリジナルの医学研究論文の30%に過ちや誇張があることが判明しているとのこと。科学は人間の活動であるため、人間がする意志決定と同じようにバイアスがかかることは避けられないとニューヨーク大学のジェイ・バベル教授は指摘しています。

これは、科学誌Scienceに掲載された論文のタイトルにおける「ポジティブな単語」と「ネガティブな単語」がどれくらい使われているかを示すグラフ。右肩上がりで、画期的な成果を強調する題名が増えていることが分かりますが、現実には画期的な成果が爆増しているというわけではありません。


限りある資金が無駄に使われてしまっている現状に対して、カリフォルニア大学デービス校のシマイン・バジラ教授は、「研究成果ではなく研究方法の厳格さ、緻密さで評価するような報酬体系に見直すべき」と訴えています。

◆3:再現性の危機
科学の研究は、論文で出された内容が他の科学者によって再現されることで初めて成果となります。再現性があることでその内容を誰もが活用でき、応用する余地が生まれるからです。

しかし、近年、科学論文で発表される内容の再現性が著しく低下しているという問題があります。

科学の「再現性」が危機に瀕している - GIGAZINE


この背景には、論文を投稿する科学誌がよりポジティブな内容の論文を好むこと、劇的な効果をもたらす結論を望んでいることという「出版バイアス」に科学者が頭を悩ませているからだという指摘があります。

◆4:査読システムの崩壊
科学誌に投稿された論文は、掲載の可否を判断するために他の専門家によるPeer Review(査読)を受けます。このスクリーニングによって、不適当な論文は掲載されることなく却下され、科学誌の質が保たれています。

しかし、Peer Reviewを行える専門的な知見を持つ適切な人材を見つけることは必ずしも簡単ではありません。Peer Reviewでの検証作業を行う科学者は、科学の進歩に寄与するという使命感から引き受けるのですが、人材不足は審査の遅延をもたらし、十分な時間をかけることなくいい加減なチェックにとどまる場合もあります。そして、査読者も人間であるため、完全なバイアスなしの判断は困難であるという問題もあります。


従来の査読は、紙媒体の科学誌への掲載を前提とした作業であることから、完全な状態の研究論文が求められました。しかし、インターネットが普及している現代においては、別の論文査読プロセスも認められるべきという意見もあります。これによると、研究内容はオープンな場に掲載され、多くの人の目にさらされてチェックを受け、指摘に従って内容を改善し、そのプロセスをすべて履歴として後から参照できるようなスタイルが検討されており、すでにarXivのようなプレプリントサーバのモデルも活用され始めています。

◆5:ペイウォール問題
科学論文は、科学誌に掲載されると、他の人がそれを読めるようになり、科学の進歩が促されます。しかし、論文掲載までの査読の時間があまりにも長すぎるため、研究ペースを落とさざるを得ないという意見も科学者の中にはあります。

さらに、Nature、Science、Cellなどの有名誌は、高価な購読料を払った人のみが論文を閲覧できる仕組みになっています。アメリカの研究機関の多くは、従業員のために科学誌の購読料を支払っていますが、すべての科学者がこのような恩恵にあずかれるわけではありません。イランのトップレベルの大学の博士号を取得する学生は、必要な論文を閲覧するために週に1000ドル(約10万円)もの購読料の支払いを余儀なくされているという窮状にあるとのこと。


カリフォルニア大学バークレー校のマイケル・アイゼン氏は、Elsevierのような一握りの大手出版社の高すぎる購読料の設定は、小さな出版社を買収し続けて、知見を占有する狭い知識層を作っているようなものだと批判しています。また、高価な購読料を取るモデルは、紙媒体の学術誌を発行するモデルであり、インターネットの学術誌のモデルとしてはふさわしくないとも指摘しています。

このような拝金主義の多くの科学誌を批判して、科学への自由で無料のアクセスを求めて科学論文を無料で公開する「Sci-Hub」のような活動も始まっています。

4700万件の研究論文を「科学の発展」のためタダで読めるようにしている海賊版サイト「Sci-Hub」 - GIGAZINE


◆6:公衆と疎遠な科学
科学論文の内容を正確に理解することは非常に難しく、専門的な知識が不可欠です。このため、論文を発表すると誤解を招くことがよくあるとのこと。論文の中身を一般市民に理解してもらうことの難しさについて、ニューヨーク大学で幹細胞を研究する博士課程の学生は、「ある一人の科学者の研究を完全に理解する人は地球上に10人いないはず」と表現してます。

専門的で難解な研究内容を伝えるために、大学などのプレスリリースが研究内容をかみ砕いた紹介として機能していますが、なんとプレスリリースの3分の1が、研究内容に誇張があったり科学的な根拠のない健康に役立つアドバイスなどの不適切な表現を含んでいたりすることが分かったとのこと。しかし、研究成果を出すために研究費を獲得する競争に打ち勝つ必要性について理解する科学者たちは、このような誇張的な表現を全員が批判するというわけではないそうです。


さらに、研究成果を曲解してセンセーショナルに表現するメディアの存在も問題視されています。このような、不正確な成果が一般市民に間違って伝わってしまう問題については、科学リテラシーを高めるためのサイエンス教育の必要性を指摘する意見や、間違った伝達について科学者側から指摘して修正を求められるような発表の場を設ける必要性が訴えられています。

◆7:若い研究者のストレス
博士過程を終えた若手研究者の多くは「ポスドク」という立場で研究を続けます。これは、大学や研究機関や民間企業で研究職に就くための前段階の過程であり、研究者の卵としてのトレーニング期間という位置付けのポジションです。

ポスドクの研究者は、筆頭著者(第一著者)になることも多く、研究で重要な役割を果たすにもかかわらず、低賃金で長時間労働を強いられるという現状があります。あるポスドクは匿名を条件に「多くのポスドクは20代後半から30代前半で、家庭を持ち始める年齢にあたります。しかし低賃金のため、生活のバランスをとるのが難しい」と報告したとのこと。特に、女性研究者は男性研究者に比べてさらに低賃金で雇われる傾向があり、将来、子どもを持ちたいという希望をもつ女性研究者のポスドク問題は深刻だそうです。

ほとんどのポスドクの契約期間は2年から3年と短期間であるため、研究職につながる成果となるべき論文作成が難しいそうで、そのため高いストレスにさらされているとのこと。継続的なストレスが、才能のある優秀な若手研究者を潰していると述べるポスドクもいたそうです。


博士号取得者の数に対して研究職の数は少ないため、場合によっては10年間もポスドクという地位のまま席が空くのを待つ研究者もいるとのこと。博士課程においては研究職以外のポジションで民間企業で働くためのトレーニングはほとんど行われないため、ポスドク滞留中に、方針転換をして研究者の道を諦めるという選択を採れないという指摘もあります。

2015年にカリフォルニア大学バークレー校で行われた調査では、ポスドクの47%が気分が落ち込んだ状態にあることが分かったとのこと。研究職を追求することは、精神衛生状態を切り売りするようなものだというわけです。

若手研究者のライフバランスを整えるための解決策が検討されているものの、基本的な問題は研究機関の慢性的な研究費用不足に行き着きます。このため大学にはポスドクを安く雇いたいという要求があり、何とかして研究職に就きたいというポスドクが弱みにつけ込まれているという構造にあり、研究資金不足という大前提が解消されない限り、問題解決は難しそうです。

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