サイエンス

多様な経験ができる人生を送ると脳の接続性がブーストされるという研究結果


刺激の多い生活と起伏のない穏やかな生活のどちらを好むかは人それぞれですが、どのような生活を送るのかは脳機能に影響を及ぼす可能性があります。新たに、異なる環境で育てたマウスの脳の接続性を調べたドイツの研究チームが、「さまざまな経験ができる環境で育ったマウスは、そうでないマウスと比較して脳の接続性が高い」と報告しました。

High-resolution CMOS-based biosensor for assessing hippocampal circuit dynamics in experience-dependent plasticity - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S095656632300413X


DZNE : A Varied Life Boosts the Brain’s Functional Networks
https://www.dzne.de/en/news/press-releases/press/a-varied-life-boosts-the-brains-functional-networks

Living a Varied Life Boosts Brain Connectivity in Mice : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/living-a-varied-life-boosts-brain-connectivity-in-mice

海馬は空間や文脈の学習、エピソード記憶などにおいて中心的な役割を果たす脳の部位であり、アルツハイマー病などの神経変性疾患の影響を強く受けます。どのような人生を送っているのかが海馬に与える影響を調べるため、ドイツ神経変性疾患センタードレスデン工科大学の研究チームは、異なる環境で育てられたマウスの海馬を調べる実験を行いました。

まず研究チームは、生後6週間目のマウスを「通常の環境で育てるグループ(対照群)」と「濃密な体験ができる環境で育てるグループ(実験群)」にランダムで割り当てました。

対照群のマウスは標準的なマウスケージに4匹セットで入れられ、巣の材料やエサ、水などが十分に与えられました。一方、実験群のマウスはより大きなケージに8匹セットで入れられ、置き場所が変わるおもちゃや迷路のようなプラスチックチューブ、トンネル、豊富な巣の材料、そしてエサや水が十分に与えられたとのこと。


そのまま生後12週間目までマウスをそれぞれの環境で育てた後、研究チームは4096個の電極を備えたCMOSベースのニューロチップを使用して、数千個もの神経細胞の発火を測定しました。研究チームは海馬全体と認知プロセス全体を制御する脳の外層との接続性を測定し、さらに6つの相互接続された海馬皮質領域をグループ化したとのこと。

以下の図は、左が対照群のマウスにおける脳活動を示したもので、右が実験群のマウスにおける脳活動を示したもの。実験群のマウスの方が脳活動が活発であることがわかります。


ドイツ神経変性疾患センターの生物医学エンジニアであるハイダー・アミン氏は、「結果は私たちの期待をはるかに上回りました。単純化すると、濃密な環境で育てられたマウスのニューロンは、標準的なケースで育てられたマウスよりもはるかに相互接続されていたと言えます」「どのパラメータを見ても、より豊かな体験は文字通りニューロンネットワークのつながりを高めました。これらの発見は、活発で多様な生活を送ることが、まったく新しい基盤で脳を形作ることを示唆しています」とコメントしています。

論文の共著者でドイツ神経変性疾患センターの神経科学者であるゲルト・ケンパーマン氏は、活動が脳の接続性に及ぼす影響についての過去の研究は、単一の電極やMRIなどを使用したものであり、今回の手法は空間および時間的な解像度がはるかに高いと主張。「ここでは文字通り、単一の細胞規模で回路が機能しているのを見ることができます」と述べました。

今回の研究はあくまでマウスを対象にしたものですが、人生における経験が脳の接続性をどのように変化させるのかを理解することで、脳機能障害の原因特定や治療法開発に役立つと研究チームは考えています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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