サイエンス

たった「1時間」を自然の中で過ごすだけで脳活動が変化してストレスが軽減される可能性


「自然と触れ合ったり自然の多い場所に住んだりすることがメンタルヘルスを改善する」という研究結果は数多く報告されていますが、自然が脳神経にもたらす影響はまだ十分に理解されているわけではありません。新たな研究では、「自然の中を1時間散歩する」だけで脳の扁桃体に影響が及ぶことが実験によって確かめられました。

How nature nurtures: Amygdala activity decreases as the result of a one-hour walk in nature | Molecular Psychiatry
http://dx.doi.org/10.1038/s41380-022-01720-6

How does nature nurture the brain? Study shows that a one-hour walk in nature reduces stress-related brain activity -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2022/09/220906114334.htm

Just one hour spent in nature can reduce stress and help you feel better
https://www.zmescience.com/science/one-hour-walk-in-nature-can-reduce-stress-related-brain-activity-08092022/

記事作成時点では世界人口の半数以上が都市部に暮らしており、今後も都市人口がますます増加していくことが予想されています。その一方で、近年は都市部に住むことがストレスを増大させ、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすという研究結果も報告されています。

そんな中、「自然との触れ合い」がメンタルヘルスを改善するという説に注目が集まっており、「1日10分ほど自然の中で過ごすだけで精神状態が改善される」という研究結果や、自然の近くで暮らす子どもは認知能力やメンタルヘルスが優れているという研究結果があります。ところが、自然がメンタルヘルスを改善する際の神経学的なメカニズムについてはまだよく理解されていないとのこと。

ストレス処理に関与する脳領域である扁桃体は、都市部に住む人と比べて農村部に住む人では活性化されにくいことがわかっています。しかし、ドイツのマックス・プランク人間発達研究所の博士研究員であるSonja Sudimac氏は、この結果は「卵が先か鶏が先か」の問題をはらんでいると指摘。「自然が実際に脳へ影響を及ぼしたのか、それとも特定の傾向を持つ個人が農村部または都市部に住むことを選んだのかという問題です」と述べています。


そこでSudimac氏らの研究チームは、自然の中で過ごすことが人々のストレス反応を直接的に減らすかどうかや、扁桃体にどう影響するのかを確かめるための実験を考案しました。まず研究チームは、募集した63人の健康な被験者に対してアンケートを実施し、ストレスを誘発するタスクを行わせてfMRIスキャンで脳活動を測定しました。

その後、被験者を男女比が均等になるよう疑似的にランダム化した2つのグループに分け、一方のグループを「ベルリン近郊の森林地帯・グリューネヴァルト」で、もう一方のグループを「交通量が多くショッピングモールなどがあるベルリンの都市部」で1時間散歩させたとのこと。

以下の画像は、「a」が各グループの歩いたルートを示したもので、「b」がグリューネヴァルトの森を、「c」がベルリンの都市部を撮影した写真です。散歩を終えた被験者はタクシーで実験室へと戻り、再びストレスを誘発するタスクとfMRIスキャンが実施されました。


実験データを分析した結果、グリューネヴァルトの森を散歩したグループはストレスに対する扁桃体の活動が低下しましたが、都市部を散歩したグループは扁桃体の活動に変化がみられませんでした。

今回の研究結果は、都市部への暴露が必ずしも個人のストレス反応を増加させるとは限らないものの、自然と触れ合うことが扁桃体の活動を低下させる可能性があると示しています。また、どちらのグループも散歩自体は同じ時間行ったことから、「歩くこと」そのものが変化をもたらすのではなく、歩いた場所が自然の中であることが変化を生み出したことを示唆しています。


研究チームは論文で、「私たちの研究により、1時間自然に触れることでストレスに関連する脳の扁桃体の活動が低下し、健康によい影響を与えることが明らかになりました。このことから、自然の中を散歩することは都市環境のストレス関連部位への悪影響を緩和し、精神疾患の予防策となる可能性があることが示唆されました」と結論づけています。

研究チームのSimone Kühn氏は、「今回の結果は、以前から想定されていた自然と脳の健康のポジティブな関係を指示するものですが、因果関係を証明した初の研究でもあります。興味深いことに、これらの脳領域における活動は都市を散歩した後も安定しており、増加は見られませんでした。これは、都市に暴露することがさらなるストレスを引き起こすという一般的な見解に反するものです」と述べました。

なお、研究チームはさまざまな集団や年齢層における自然の恩恵を調査するため、都市または自然環境での散歩が母親と赤ちゃんに及ぼす影響について研究しているとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「自然との触れ合いがメンタルヘルスを改善する」という研究に隠されたバイアスとは? - GIGAZINE

1日10分ほど自然の中で過ごすだけで精神状態が改善される可能性があるとの研究結果 - GIGAZINE

森林の近くで暮らす子どもは認知能力やメンタルヘルスが向上するとの研究結果 - GIGAZINE

水辺の近くに住むことがメンタルヘルスや健康にメリットをもたらすとの研究結果 - GIGAZINE

自然が人を健康にする「4つの方法」とは? - GIGAZINE

強いメンタルヘルスを養う方法とは? - GIGAZINE

「体力がない人はメンタルヘルスが悪化しやすい」という研究結果 - GIGAZINE

都市生活はうつ病の原因となる物質にあふれているという研究結果 - GIGAZINE

都会暮らしはうつ病や不安障害のリスクを高める一方でメンタルヘルスにメリットも与える - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.