ネアンデルタール人が遺体と一緒に花を埋葬したという痕跡は「ミツバチの気まぐれ」によって作り出された可能性
ネアンデルタール人の墓場から「花粉」が見つかっていることから、一部の学説ではネアンデルタール人が遺体と一緒に花を埋葬したのではないかという仮説が立てられています。ところが、新たな調査により、問題の花粉は人間ではなく、ミツバチによって集められたのではないかとの指摘が行われました。
Shanidar et ses fleurs? Reflections on the palynology of the Neanderthal ‘Flower Burial’ hypothesis - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305440323001024
1950年代から1960年代にかけて発掘されたイラクのシャニダール洞窟からは、ネアンデルタール人の遺体と共に花粉の塊が発見されています。このことから、ネアンデルタール人は遺体と一緒に花を埋める「花葬」を行っていたのではないかとの仮説が立てられています。
リバプール・ジョン・ムーア大学の古生態学者クリス・ハント氏率いる研究チームは、こうした説に異議を唱える新たな仮説を立てました。
1975年の調査により、シャニダール洞窟で見つかった花粉は植物種がほぼ同定されており、植物がすべて同じ時期に採取可能だったことが論文で主張されました。
by hamed yahyazade
しかし、ハント氏らは「厳密に植物種を同定したところ、その開花時期は異なり、すべての植物が同じ時期に集められたという既存の仮説には矛盾が生じる」と指摘。さらに、見つかった花粉は複数の花粉が凝縮して塊のようになっていたことから、「もし花が全体的に配置されていれば、塊に含まれる花粉は一種類だけとなる可能性が高い」とも論じ、ただ花が置かれただけではこのような痕跡にはならないと述べました。
別の仮説としては、げっ歯類が花粉を集めたなどの可能性も考えられますが、ハント氏らは「最も可能性が高いのは、ミツバチによって花粉が蓄積されたという説である」と指摘しています。
ミツバチが異なる花を訪れた場合、体には複数の種類の花粉が付着することがあります。さらに、シャニダール洞窟からは土の中に巣を掘るミツバチの穴も見つかっていることから、花粉が付着したミツバチが遺体のそばで穴を掘ることで、異なる時期に開花した異なる種類の花粉が蓄積していったのではないかと考えられるとのこと。
by Chris O. Hunt,Emma Pomeroy,Tim Reynolds,Emily Tilby,Graeme Barker
ハント氏らは「現場からはCentaurea solstitialisという種の花粉も見つかっていますが、この種は長さ2cmを超える鋭く硬いトゲを持っている植物であるため、花葬説で考えられる『思いやり』や『共感』のためにこの植物を置いたとは考えにくい」と指摘。
by Harry Rose
ただし、ネアンデルタール人が遺体の上に枝などの植物を置いたという考えには賛成の意を示し「トゲのある植物を置くことで遺体が守られると考えられた可能性もあるが、その証拠はかなり曖昧なので、引き続き調査する必要がある」と述べました。
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