サイエンス

常温常圧で「超電導」になる物質を合成したとする論文について科学雑誌Scienceが解説

by Julien Bobroff

特定の物質を冷やすと電気抵抗が0になる「超電導」という現象について、「常温でも超電導を実現する」というこれまでの常識を覆す論文が2023年7月22日に提出されました。この論文の内容について、有機化学者兼ライターのデレク・ロウ氏が解説しています。

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金属や化合物などの物質を極低温まで冷やす起こる超電導は、基本的に-200度近い温度まで冷やさないと生じず、液体窒素の沸点である77K(約-196度)以上の温度で超電導現象を起こすものでようやく「高温超電導」と呼ばれるほど、低温環境下での発生が常識であるものとして知られていました。

しかし、この超電導を最大127度の環境下でも実現したとする論文が突如としてプレプリントサーバーのarXivで公開されたため、超電導に関心を持つ研究者らは大きく沸き立ちました。

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著者らは論文の中で銅を添加した鉛材料「LK-99」について説明しています。LK-99は酸化鉛と硫酸鉛の特徴を持つ鉱物「ラナルカイト(Pb2(SO4)O)」を調製することによって作られます。これとは別に、銅元素とリン元素から、これまたよく知られた化合物であるリン化銅(Cu3P)を新たに調製し、これら2つの物質を1:1の割合で粉砕して混合物を真空排気した石英管に密封した上で925℃まで加熱すると化学式Pb10-xCux(PO4)6OのLK-99が形成され、暗色の多結晶体となるとのこと。ロウ氏は「その構造は、よく知られたリン酸塩鉱物であるアパタイト鉛に非常によく似ていますが、格子中の特定の鉛原子が銅原子で置換されているため、結晶学的単位胞がわずかに小さくなっています」と指摘しています。

そして、この化合物に、超電導体が持つ外からの磁場を打ち消すように逆向きに磁化するという特徴「完全反磁性(マイスナー効果)」が備わっていると著者らは述べています。著者らはこの物質のゆがんだ構造が特定の鉛原子とそれに結合したリン酸基の隣接する酸素との間に多数の「量子井戸」が形成され、事実上2次元の「電子ガス」を作っていると考えています。ロウ氏は「私はこの提案を判断できるほど固体物理学の知識は持ち合わせていません。しかし、著者らは実験的証明の対象となる詳細なメカニズム論を主張しており、それを裏付ける十分なデータを提示しています。そして、マイスナー効果、臨界温度での抵抗率の急激な変化など、超電導体が持つべき挙動を実証しているのです。これらのデータが再現されれば、この物質の超電導性は疑う余地がないように思われます」と述べました。


業界を揺るがす発見になるかと期待されているこのLK-99について、ロウ氏は「調製手順が極めて単純であること」を利点としてあげています。ロウ氏は「本当に、研究者らの主張通りであることを願っています。本当であればノーベル賞ものの発見であり、世界中の固体材料研究所が昨日も今日もLK-99の合成と特性を再現しようと試みていることは間違いありません。最初のサンプルがそろそろ出てくるはずです」と話し、超電導体の再現性について期待の声を寄せました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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