サイエンス

男性ではなく女性が唯一の稼ぎ手になっているカップルは幸福度が低いという研究結果


働き方や家族のあり方が多様化した現代では、家計を支える大黒柱として働いているのが夫ではなく妻であるというケースも珍しくありません。ところが、イギリス・バース大学の社会学講師であるヘレン・コワレフスカ氏らがヨーロッパ9カ国を対象にした調査データを分析した研究では、「女性が唯一の稼ぎ手になっているカップルは幸福度が低い」という結果が明らかになりました。

female-breadwinner well-being ‘penalty’: differences by men’s (un)employment and country | European Sociological Review | Oxford Academic
https://doi.org/10.1093/esr/jcad034


Men 'less satisfied with life' when their female partner is the only earner – new study
https://www.bath.ac.uk/announcements/men-less-satisfied-with-life-when-their-female-partner-is-the-only-earner-new-study/

Couples in which the woman is the only earner report lower life satisfaction – new research
https://theconversation.com/couples-in-which-the-woman-is-the-only-earner-report-lower-life-satisfaction-new-research-208503

男女平等が促進された現代社会でもさまざまな面で男女間の違いが存在しており、社会的なジェンダー規範が男女の健康や給与に影響するという研究結果が報告されています。そこでコワレフスカ氏らの研究チームは、フィンランド・フランス・ドイツ・イギリス・アイルランド・ポルトガル・スペイン・スロベニア・ポーランドの9カ国を対象に行われた欧州社会調査(ESS)のデータを分析する研究を実施しました。

対象データに含まれる被験者は4万2000人以上に上り、年齢は18~65歳までで、いずれも異性のパートナーと同居していました。また、カップル以外の成人(どちらかの義両親や友人など)が同居しているケースや、どちらかまたは両方が学生であるケース、恒久的に働けない疾患や障害があるケース、すでに仕事をリタイアしているケース、兵役に就いているケースなどは除外されたとのこと。

被験者は世帯の収入状況などについて回答したほか、自分の人生についてどれほど満足しているのかを「0」~「10」のスケールで評価しました。なお、ほとんどの被験者は「5」~「8」の間のスコアを付けたそうです。


データを分析した結果、男性の人生に対する満足度は平均で「7.24」、女性では「7.31」でした。一方で男性の平均満足度は、女性が唯一の稼ぎ手となっている世帯だと「5.86」、男性自身が唯一の稼ぎ手の場合は平均で「7.16」と大きな差があることが判明。女性の人生に対する満足度は、女性自身が唯一の稼ぎ手だと「6.33」、男性が唯一の稼ぎ手だと「7.10」であり、男性より差は小さいものの同様の傾向がみられました。この傾向はドイツ・イギリス・アイルランド・スペインなどで強く見られたものの、男女平等が進んでいるフィンランドなどの国でも見られ、ヨーロッパ全体に普遍的な傾向であることがわかりました。

コワレフスカ氏は、女性だけが唯一の稼ぎ手であることは男性にとって重い心理的負担であり、むしろ女性が失業している方が人生の満足度が高いことがわかったと指摘。実際に男性の社会的要素や収入、ジェンダーに対する態度などを考慮した場合、失業中の男性は女性が稼いでいる状態よりも、女性も一緒に失業している状態の方が大幅に満足度が高かったとのこと。

男性の満足度は、意図的に仕事をしていなかったり家事やその他の家庭内での責任を果たしていたりする場合よりも、やむを得ず失業状態に陥っている場合に最も悪化しました。失業は自己不信・不確実性・孤独・スティグマなどの大きな心理的負担と関連しており、結果として男性の満足度が下がってしまうと研究チームは考えています。


家庭内の唯一の稼ぎ手が女性である時に女性自身の満足度も下がっている理由については、共働き世帯や男性が稼ぎ手の世帯よりも収入が低く、生活が苦しいことが原因の可能性があるとのこと。また、パートナーである男性の満足度が低下してしまう点も、女性の満足度が低下する原因になっている可能性があります。

家庭の経済状況や年齢、子どもの有無、ジェンダー規範への態度といった要因を制御して分析を行ったところ、女性が唯一の稼ぎ手である場合の女性の満足度低下は、男性が唯一の稼ぎ手である場合と比較してわずか「-0.048」まで抑えられることが判明しました。しかし、この場合も男性の満足度は依然として「-0.585」も低いままであり、特にドイツでは「-1.112」も男性の満足度が低下していたと研究チームは述べています。


この結果は、ヨーロッパ全体で依然として「世帯の稼ぎ手であること」が男性の自己意識の中心となっており、「男らしくあること」「良い父であること」から抜け出せていないことを示唆しています。また、失業中の男性はコミュニティや社会的なつながりを築く可能性が低く、結果として孤独に陥りがちな可能性もあるとのこと。

コワレフスカ氏は、「私たちの調査結果はジェンダー規範がカップルの失業への対処法に影響を及ぼし、男性は女性よりも自身の雇用状況を重視することを示唆しています」「家計を支えることと男らしさの関係を断ち切るには、まだ長い時間がかかることは明らかです。男性が稼ぎ手であることの理想化に対処することは、男性がその期待に応えられなかった時に『失敗してしまった』と感じないようにするために重要です」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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