サイエンス

社会のジェンダー規範が男女の健康や給与の違いに影響することを示す2つの研究結果が発表される


男性と女性では外見が違うだけでなく、男性は女性より寿命が短いという生物学的差異や、収入が多いといった社会的傾向があります。新たに発表された2つの研究では、性別による健康や収入の違いが生物学的な差異ではなく、地域社会におけるジェンダー規範や自分自身の能力に関する自信によって変化することが示されました。

Matriliny reverses gender disparities in inflammation and hypertension among the Mosuo of China | PNAS
https://www.pnas.org/content/117/48/30324

The confidence gap predicts the gender pay gap among STEM graduates | PNAS
https://www.pnas.org/content/117/48/30303

Internalized gender-focused attitudes affect health, career prospects | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/11/internalized-gender-focused-attitudes-affect-health-career-prospects/


テクノロジー系メディアのArs Technicaが紹介した2つの論文のうち、1つは中国のチベット自治区に住む少数民族のモソ族の女性に焦点を当てたものです。モソ族の多くは女性を世帯主として家庭を形成し、夫となる男性が生まれ育った家族と共に暮らしながら妻の元へ通う「走婚」という通い婚の伝統を維持しています。その一方で、一部の人々は現代的な家父長制を取り入れ、男性が世帯主の家庭を形成しているとのこと。

研究チームはモソ族の特殊な状況に着目し、母系家庭のメンバーと父系家庭のメンバーにおける慢性疾患の兆候を調査し、両者にどのような違いがあるのかを分析しました。慢性疾患の兆候として研究チームが利用したのは慢性炎症と高血圧の兆候であり、いずれも健康に重大な影響を与えることが知られています。


分析の結果、父系の慣習を持つ家庭では慢性炎症を患う男性が3.2%で女性が8.3%、高血圧を患う男性が26%で女性は33%であり、女性の方が健康に問題を抱える割合が多いことが判明。一方、母系の伝統を維持する家庭では慢性炎症の男性が6.4%で女性が3.6%、高血圧の男性が28%で女性が26%と、男性の方が健康に問題を抱える割合が高くなることがわかりました。

母系社会に属する男性の健康状態が父系社会に属する女性より比較的良好な点について、研究チームは生まれ育った家庭で暮らし続ける習慣が影響していると推測しています。分析の結果を受けた研究チームは、「健康は自律性・資産管理・社会的サポートに影響するジェンダー規範を含む、社会的・文化的要因によって広範に形作られます」と述べ、世帯主であることのストレスは自律性などによって相殺されると主張しました。


また、2つ目の論文はアメリカのエンジニアが得ている給与を調査したものです。研究チームは、27の異なる大学で工学およびコンピューターサイエンスの学科を卒業した559人の学生を3年間追跡し、調査時点で得ている給与や大学での成績、卒業直後の初任給、業種といったデータを収集しました。また、研究チームが「工学的自己効力感」と呼ぶ、プロトタイプの構築や数学モデルの構築といったタスクを遂行する能力についての自信も調査したとのこと。

「女性の給与は男性より低い」と一般的に言われている通り、研究チームは同じ学科を卒業した女性が得る平均給与は男性の平均よりも低く、年間約5000ドル(約50万円)の開きがあることを発見しました。成績や大学名といった要因を考慮するとこのギャップは縮小したものの、それでも男性と女性の間には給与格差があったそうです。

しかし、研究チームが自分のスキルに対する自信である「工学的自己効力感」に基づいて結果を調整したところ、男女の給与格差はほぼ解消されました。つまり、男女の賃金格差を最もよく説明するのは「性別」ではなく「エンジニアとしての自己スキルに対する自信」であり、言い換えると女性は男性よりも自分のスキルを過小評価しがちな傾向がありました。なお、「給与を重要視する傾向」や「給与ではなく職場の文化を重視する傾向」は、男女の賃金格差を説明しなかったとのこと。

男性と女性の間に自信の差があるという点について、研究チームは「以前の研究でも、実際の能力に関係なく女性が男性よりも数学や科学の能力に対する自信が低いことが示されてきました」と指摘しています。


Ars Technicaは性別の違いが健康や給与に影響を与える2つの論文について、「これらのレポートは社会的要因が性別の違いに大きな影響を及ぼす可能性がある点を強調します」と指摘。性別による違いは変えることができない生物学的要因ではなく、修正可能な社会的要因によってもたらされていると認識する必要があると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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