「女は男よりも寿命が長い」のは人に限ったことではない、なぜ野生動物においても同じ傾向が観測されるのか?
男性よりも女性の方が寿命が長いという傾向はこれまでの調査で示されており、WHOは「女性は男性よりも平均して6~8年寿命が長い」と発表しています。研究者の中には「喫煙パターンの流行で男女の寿命差の変動が説明できる」と主張する人もいますが、新たな研究結果では、人間以外の野生の哺乳類ではこの傾向がさらに顕著であると示されました。
Sex differences in adult lifespan and aging rates of mortality across wild mammals | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/03/17/1911999117
It's Not Just Humans: Across Mammal Species, Females Outlive Males
https://www.sciencealert.com/it-s-not-just-humans-females-outlive-males-in-other-mammals-too
バース大学の進化生物学者であるタマス・ケセリー氏らの研究チームが、野生動物の個体数の統計学的研究を再評価したところ、哺乳類101種のうち60%においてメスの寿命がオスよりも長いことが示されました。平均するとメスの寿命はオスの寿命より18.6%長かったとのこと。
ケセリー氏は「老化速度において一貫した性差は見つかりませんでした。つまり、メスの寿命が長くなる理由は『老化速度が遅い』という意味ではありません。単純に、高齢時の死亡率が低いのです」と述べています。
一般的に、野生動物のメスの寿命が長い理由は、オスがメスを求めて激しく戦うというリスク行動を取るためだと考えられてきましたが、ケセリー氏はこの仮説を支持していません。
「ライオンのメスは姉妹、母親、娘たちがいる群れの中で生活し、共に狩りをし、互いを世話します。一方で大人のオスライオンは単独で生きるか、兄弟とだけ共生しており、メスとは支援ネットワークが異なります」とケセリー氏は説明。生活様式の違いが寿命の違いを生み出す要因の1つになったとみています。
また、2020年3月16日に発表された別の研究では、鳥・昆虫・魚・哺乳類を含む229種の生物の寿命データが調査されたところ、「同じ種類の性染色体が2つあること」が生存に有利に働くことが示されています。哺乳類でいうと女性の性染色体「XX」がこれに当たりますが、鳥類の場合はオスの性染色体「ZZ」が該当し、メスよりオスの方が寿命が長いとのこと。これも性別による寿命差のパズルを解く1つのピースだとみられています。
そして、同じ種の動物でも、環境によって寿命の性差に大小があることにも注目が集まっています。例えば冬の間に厳しい環境を経験するビッグホーンは寿命に性差が確認されていますが、同種の羊でも資源が豊富な場所で暮らすビッグホーンの寿命に性差はありません。これはビッグホーンのオスが230kgと大きな体を持つのに対し、メスの体が91kgにとどまることが関係しているとみられています。大きな体の生き物が生命を保つにはより多くの食料が必要になるためです。
このような研究結果から、研究者は「環境」という要因が性淘汰や繁殖を含む多くの要因と関係しあうことで寿命に性差を生み出しているとみています。「病原体の有病率の高さがオスとメスに異なる影響を与えることも、寿命に性差を生み出していると考えています」と語るケセリー氏は、今後の研究で、野生動物と動物園で暮らす動物を比較することを考えているとのことです。
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