女子の方が男子より「学業の失敗を才能のせいにする」傾向が強い、裕福で平等主義の浸透した国で特に顕著
「理数系は男性の方が得意」「女性は感情的」といった性別に関するステレオタイプは、学業成績や社会に進出した後のキャリアにも影響を及ぼすため、こうしたステレオタイプを解消することが必要とされています。72カ国50万人の学生を対象にした大規模調査を基にした研究からは、女子学生の方が男子学生よりも「学業の失敗は才能のせい」と考える傾向が強く、さらにこの傾向が平等主義の浸透した国で特に強いことが判明しました。
The stereotype that girls lack talent: A worldwide investigation
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm3689
Large Study Finds Girls Credit This Stereotype For Failing, And It's Holding Them Back
https://www.sciencealert.com/large-study-highlights-how-girls-attribute-a-lack-of-innate-talent-for-their-failures
記事作成時点では、いくつかの西側諸国では大学進学率で女性が男性を上回っており、ほとんどの経済協力開発機構(OECD)加盟国では労働市場に女性が占める割合が40%を越えています。しかし、ヨーロッパでは上場企業の取締役に占める女性の割合は23.3%、最高経営責任者(CEO)に至ってはわずか5.1%にとどまっており、女性の昇進を阻む「ガラスの天井」があると指摘されています。
フランス国立科学研究センターの研究チームは、一般的に「男性が女性よりも知能面で才能がある」とするステレオタイプが存在することを指摘。このステレオタイプについてさらに詳しく理解するため、2018年に実施されたOECD生徒の学習到達度調査(PISA)のデータを用いた研究を行いました。
2018年のPISAには、「自分が失敗した時、自分に十分な才能がないのではないかと不安になる」という文章について、どの程度同意するかを尋ねる質問が含まれていたとのこと。研究チームは合計72カ国に住む50万人以上の生徒から収集したデータから、この文章に同意する割合が性別や国ごとにどれほど違うのかを分析しました。
収集したデータを分析した結果、調査対象となった72カ国のうち71カ国では、たとえ成績が同じ程度であっても男子より女子の方が失敗を自分の才能のせいにする傾向が強いことが判明。意外なことにこの傾向は裕福な国々で顕著であり、OECDの裕福な国々では女子の61%が失敗を才能のせいにしたのに対し男子は47%で、その差は14ポイントでした。一方、非OECDの比較的貧しい国々でも同様の傾向は見られたものの、男女差は8ポイントにとどまっていました。
加えて、失敗を才能のせいにする傾向の性別差は、平均的な成績の生徒よりも成績が優れた生徒において大きかったと研究チームは指摘しています。なお、男子の方が女子よりも失敗を才能のせいにする唯一の国は、世界でも特に女性の人権が抑圧されていると指摘されているサウジアラビアだったとのこと。
論文の共著者のThomas Breda氏は、「人権教育が行き届いていて男女格差も小さい先進国の方が、性別と才能のステレオタイプが強い」という矛盾について、「完璧な説明はありません」とコメント。今回の結果は、「国が発展するにつれてジェンダーの規範が消えるのではなく、自ら再構成される」ことを示しているとのこと。
1つの仮説としては、「より多くの自由が存在する国には、最終的に個人が古い固定観念に陥る余地が残る」というものが挙げられます。また、先進国では個人的な成功に強い注目が集まりやすいことから、「才能」という概念をより重視している可能性もあるとのこと。たとえば、個人的な成果に関係なく出自や性別で成功が決められる社会では、それぞれが持つ才能の重要性は低くなり、結果として性別と才能のステレオタイプを適用する余地が少なくなるわけです。
さらに今回の研究では、「自分には才能がない」と思っている女子ほど「自分に自信がない」「競争を好まない」「情報通信技術など男性優位の職業に就きたがらない」という傾向も示されました。これら3つの要素は「ガラスの天井」が存在する理由としてよく挙げられるものです。研究チームはこれらの結果を総合して、「国が発展して男女平等主義が進んだとしても、ガラスの天井がなくなることはないでしょう」と論文でまとめています。
Breda氏はこうした問題の解決策として、「生まれつきの才能という観点で考えるのをやめましょう。成功は試行錯誤を通じた学習によってもたらされるものです。『純粋な才能』という概念を解体すれば、『女子は男子に比べて生まれつき才能に恵まれていない』という考え方も解体されるでしょう」と述べました。
・関連記事
男女平等が実現されるほど、女性は科学や数学の道を選ばなくなるという研究結果 - GIGAZINE
科学や数学の分野において男女に成績の差があるのか、160万人の高校生のデータから判明したこととは? - GIGAZINE
男女を区別して扱わない学校に通うと、子どもはどのように育つのか? - GIGAZINE
社会的な性の概念「ジェンダー」が子どもの中で形成される段階には生物学的な要因も影響していることが浮き彫りに - GIGAZINE
テストの時間が長くなるほど男女のパフォーマンス差が減少することが判明 - GIGAZINE
社会のジェンダー規範が男女の健康や給与の違いに影響することを示す2つの研究結果が発表される - GIGAZINE
興行収入が1000億円規模の大ヒット映画はいずれもジェンダーバイアス測定の「ベクデルテスト」をクリアしている - GIGAZINE
・関連コンテンツ