サイエンス

南極の「血の滝」の謎が1世紀越しに判明、火星の生命探査技術の限界に一石を投じる発見も


南極大陸のテイラー氷河には、氷の裂け目から血のように赤い水がしたたり落ちる「血の滝」が存在します。1911年に南極探検隊が発見して以来謎に包まれていた血の滝の正体が、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学らの調査により100年越しに解明されました。

Frontiers | A Multi-Technique Analysis of Surface Materials From Blood Falls, Antarctica
https://doi.org/10.3389/fspas.2022.843174

Seeing red: Researchers uncover the century-old mystery of Blood Falls | Hub
https://hub.jhu.edu/2023/06/26/blood-falls-mystery/

The Eerie Mystery of 'Blood Falls' in Antarctica Is Finally Solved : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-eerie-mystery-of-blood-falls-in-antarctica-is-finally-solved

オーストラリアの地質学者であるトーマス・グリフィス・テイラーは、有名なイギリスの南極遠征であるテラノバ遠征の最中である1911年に、南極の氷河から赤い水が湧き出ているのを発見しました。

この氷河の亀裂から出た水は最初は透明ですが、すぐに赤色に染まって合流し、滝のようになって岩肌を流れます。発見以来、血の滝に興味を引かれた多くの科学者が調査を行い、これにより氷河の下に微生物がいることや、水に含まれる鉄分が酸化して赤くなることなどが判明しましたが、肝心の水を赤くする物質の詳細はわかっていませんでした。

by Ariel Waldman

ジョンズ・ホプキンス大学の物質科学者であるケン・リヴィ氏らの研究チームは今回、血の滝から採取された物質を高性能な透過型電子顕微鏡で解析することで、水を赤くしているのは鉄分を中心とした元素で構成されるナノスフィアだということを突き止めました。

このアモルファス(非晶質)のナノスフィアは、氷河の下に生息する古代の微生物を由来とするもので、粒子の大きさは人間の赤血球の100分の1しかありません。鉄分の他にはケイ素、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどの元素を含んでおり、この独特な組成が酸素と太陽光の熱にさらされた際に水を赤く染める要因となっていました。

発見されたナノスフィアについてリヴィ氏は、「このような鉱物になるには、原子が非常に特殊な結晶構造で配置される必要があります。しかし結晶ではないため、サンプル中の固体を調べるためにこれまで使われてきた方法では検出できませんでした」と説明しました。

以下は、研究チームがサンプルを走査型電子顕微鏡で撮影した画像と、サンプルの化学組成の分析結果を表した図です。


そして、以下は透過型電子顕微鏡を使用してサンプルの粒子をさらに高倍率で撮影した図です。ナノメートル単位の分析により、鉄分豊富な極小の球体の存在がわかりました。


血の滝の源となる氷河の下には、数千年前から数百万年もの長きにわたって生息していると考えられている古代の微生物が存在します。ほとんど酸素がない分厚い氷河の下という極限環境に生きるこの微生物は、地球外生命体について研究する多くの宇宙生物学者から注目されてきました。

しかし、今回の研究により地球外生命体の探査ミッションに新しい課題が投げかけられたと研究チームは指摘します。なぜなら、高度な解析を行ってはじめて微生物の活動の痕跡を詳細に解明することができたということは、無人探査機が搭載するセンサーや分析器では、火星の地下深くなどに生息するかもしれない生き物やその手がかりを見落としてしまう可能性があるからです。

リヴィ氏は「私たちの研究によって、探査機での分析では惑星表面の環境中にある物質の本質を見極めることができないことが明らかになりました。特に、火星のような寒冷な惑星では、形成される物質がナノサイズであったり非晶質であったりするので、これらの物質を十分に特定できません。岩石惑星の地表の性質を本当に理解するためには透過型電子顕微鏡が必要ですが、これまでのところ火星にこうした機材を設置することは不可能です」と問題提起しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
南極の海氷面積が記録的な狭さに縮小、2023年4月以降は過去最少面積を更新し続けている - GIGAZINE

南極の貴重な生態系が人間の船で運ばれる外来種に脅かされている - GIGAZINE

世界中の科学者が注目する南極の「スウェイツ氷河」はなぜ地球温暖化を考える上で重要なのか? - GIGAZINE

世界のちょっと変わった色の砂浜 - GIGAZINE

南極の棚氷の3分の1は平均気温があと2.75度上がると崩壊する可能性がある - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.