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感受性の豊かな読者による校正で作品を守る「センシティブ・リーダー」の意義とは?


人種や身体的・精神的特徴に対する意識の高まりから、差別表現や暴力表現への規制が強まっています。古典作品の新装版をリリースする際にそのような表現の変更が余儀なくされている事例もあり、「作品によって私たちが気分を害してはならないという強迫観念により、作品が大きく改定されてしまうのは望ましくない」と懸念する声もある一方で、オーストラリアのディーキン大学コミュニケーション・クリエイティブ・アーツ学部で講師を務めるヘレン・ヤング氏は、感受性豊かな読者が作品の偏見や残酷さを見いだして校正する「センシティブ・リーダー」の意義について語っています。

Why sensitivity readers matter – and should be paid properly
https://theconversation.com/why-sensitivity-readers-matter-and-should-be-paid-properly-183531


1992年の出版以降アメリカで高い人気を誇る子ども向けホラー小説シリーズ「グースバンプス」の一部の作品について、作者であるR・L・スタイン氏の同意や確認なく、登場人物の体重、メンタルヘルス、人種、および性別に関連する文章表現が変更されていたと報じられ、論争を引き起こしました。「チャーリーとチョコレート工場」の原作などで知られるイギリスの小説家であるロアルド・ダール氏の作品でも同様の改訂があり、その改訂についてイギリスのリシ・スナク首相やカミラ王妃なども批判的な意見を述べたことから、「表現の自由」を制限する動きに注目が集まりました。

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このような動きを受け、アメリカの保守系メディアのNational Reviewは、「センシティブ・リーダー」という専門家に関して「古典の内容をゆがめている」と批判的な意見を述べました。センシティブ・リーダーとは、傷つきやすい読者や影響を受けやすい子どもを意識して、差別や偏見、過度な暴力などを含む表現に注意してチェックする校正担当者を指しています。

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センシティブ・リーダーは表現の自由を妨げて作品の本来の意図をゆがめてしまうという主張や、「物語に触れるときは、気分を害さない安全な空間で慰められていたいのではなく、作品に頭を殴られるような感覚も重要」とする意見もあります。一方でヤング氏は、「表現に対する意識の高まりの中で、実際に出版社やリリース先で不備が起こる大失敗で作品自体が破綻してしまうことを考えると、表現に敏感な校正担当者が重要な役割を果たします」とセンシティブ・リーダーの意義を語っています。

ヤング氏によると、「センシティブ・リード」とは、意図せずステレオタイプを使用したり、マイノリティや知らない文化について不正確に描写したりすることを防ぐために、書籍や脚本、ゲームなどについてリリース前にレビューすることです。特に、自分が普段触れていない文化圏で生きる人を描く場合や、自分は該当しないLGBTQの登場人物を出す場合などは、実際にその特徴を持つ人に読んでもらうことが理想的だとヤング氏は述べています。


センシティブ・リードが一種の検閲であり表現の自由を害するという意見に対しては、ヤング氏は「著者が日常的にパートナーとして仕事をする編集者のように、センシティブ・リーダーという専門家を考えると、検閲とは全く異なることがわかります。センシティブ・リーダーは細部の誤りを見つけたり、文化的な背景からありえないシナリオやストーリーを特定したりすることで、作品の芸術的品質に貢献することができます」と反論しています。ヤング氏によると、センシティブ・リーダーは「生きた経験から得た専門知識を持つ専門家」と言えるとのこと。

また、実際にセンシティブ・リーダーが活躍する場面でも、センシティブ・リーダーによる指摘がないがしろにされるケースが多いとヤング氏は指摘。性的マイノリティについて伝える作家のウィル・コスタキス氏は、「多くの場合、センシティブ・リーダーは批判に対する盾として利用され、さらに悪いことに、プロセスから消去されてしまいます。作者は(他人の意見を真剣に受け止める必要がない)天才だから仕方ありません」とツイートしています。


同様に、中世初期のイングランドについて専門知識があり、カリブ海出身のインド系アフリカ人の学者であるメアリー・ランバラン・オルム氏が歴史に関する学術出版のリーダーとして参加した際にも、白人作家らによってアドバイスが退けられたそうです。それにもかかわらず、書籍の謝辞でオルム氏への感謝が記されたため、オルム氏が学者として誤った内容の本を形にしたという印象が生まれてしまったとのこと。オルム氏は「私たちのレビューは、私たちを『同盟者』だと考える人たちにとってのみ役立ちます。私たちと『白人』として会話する人は、正直な会話をすることが非常に困難になります」と語っています。

ノンフィクションはもちろん、フィクションであっても、物語に触れることは、自分の経験を超えた世界について学ぶ1つの方法になります。そのため、間違った描写は誤った印象や信念を与える可能性があります。固定観念によるそれらの誤りを避けることは倫理的、道徳的、美的にも重要であり、そのためにセンシティブ・リーダーが重要な役割を果たすとヤング氏は強調。その上で、センシティブ・リーダーは専門家としてのスキルや知識として、報酬の面でも高い評価に値すると主張しています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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