メモ

古典小説の表現が傷つきやすい読者と「センシティブ・リーダー」という専門家にゆがめられているという指摘


古い小説等を読むと、「作中には、差別的・不適切な表現が当時の表現のまま記されている場合がありますが、差別的意識を容認したものではなく、歴史的資料として残しています」といった注意書きがされていることがあります。古典作品には実際に、偏った見方や現代では差別的として使わなくなった表現が用いられていることがありますが、アメリカの保守系メディアのNational Reviewは、「古典の差別的表現を嫌う現代の敏感な読者により、古典の内容がゆがめられているケースが多くあります」と指摘しているほか、不適切な表現を指摘する専門家の「センシティブ・リーダー」に関して批判的な意見を述べています。

Sensitivity Readers Have a License to Bowdlerize | National Review
https://www.nationalreview.com/magazine/2023/05/01/sensitivity-readers-are-distorting-the-pages-of-the-past/amp/


Agatha Christie Latest Author to Be Rewritten by Progressive Sensitivity Readers | National Review
https://www.nationalreview.com/news/agatha-christie-latest-author-to-be-rewritten-by-progressive-sensitivity-readers/


「チャーリーとチョコレート工場」の原作となる「チョコレート工場の秘密」などで知られるイギリスの小説家であるロアルド・ダール氏の作品において、新しいバージョンをリリースする際に文章表現を大きく変更することが発表されました。この変更にはイギリスのリシ・スナク首相やカミラ王妃なども批判的な意見を述べたことから「表現の自由」に関する大きな論争を巻き起こし、出版社は「古典そのままのバージョン」「表現を現代風に変更したバージョン」に分けて両方リリースすることになりました。また、アメリカで高い人気を誇る子ども向けホラー小説シリーズ「グースバンプス」でも同様の変更が作者の許可無く行われ、大きな問題となりました。

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古典における人の体格、人種、民族性などに関する文章が現代の感性に合わせて変更されるケースは、アガサ・クリスティの作品でも起きています。クリスティはミステリー小説におけるキャラクター設定のテクニックとして、あえて特定の職業や民族を頻繁にコミカルな演出で描いていたと言われており、そのいくつかは問題のある表現として、作者の死後である現代の新バージョンにおいて変更されています。例えば、エルキュール・ポアロシリーズの「ナイルに死す」では、登場人物が子どもたちのグループを指して「彼らの目と鼻は嫌なもので、私は子どもが好きだと思えません」と不満を述べる部分がありますが、この部分は最新のバージョンでは削除されています。また、「ニヤニヤした黒人」と表現されていた使用人は、笑ってもなく黒人でもなく、単に「使用人はうなずく」とだけ表現されています。

また、ミス・マープル・シリーズの「カリブ海の秘密」では、マープルが西インドのホテル従業員を「ステキな白い歯」だと評価するシーンがありましたがその部分は削除されていたり、「彫刻のような黒い大理石の胴体」と肉体美を言及されたキャラクターにはその特徴が失われていたりと、褒める表現で用いられていた内容も多くが削除されています。さらに、「ユダヤ人」やエジプトの民族グループである「ヌビア」など、人種への言及はほぼすべてが取り除かれているそうです。


イギリスのTelegraphが報道した内容によると、クリスティの小説を出版するハーパーコリンズは、現代に合わない表現を指摘するセンシティブ・リーダーという専門家を雇用しており、本が改訂されること自体は初めてではないものの、2020年以降のここまで大規模な変更は、あまり例がないものとなっています。

2023年4月に「ジェームズ・ボンド」シリーズの創刊70周年を記念した再出版に際し、作者であるイアン・フレミングの著作権利団体はセンシティ・ブリーダーを雇用し、表現を大きく改訂することが発表されました。新しいバージョンには、「この本は、現代の読者にとって不快と思われる用語や態度が一般的であった時代に書かれたものです。この版では、原文と舞台となった時代に近づけながら、多くの更新を行いました」という注意書きが追加されています。例えば、元の作中では特定の人種を指して「飲み過ぎたとき以外は、法律を守ってくれる連中だ」と表現されていた部分が丸ごと削除されており、読者が退屈にならないようにという文章上の作者の努力や、キャラクターの性格を表したニュアンスを消し去ってしまうという懸念が挙がっています。


National Reviewのライターであるダグラス・マレー氏は、このような変更の原因は「センシティブ・リーダー・ビジネスから来ています」と指摘しています。マレー氏はフランツ・カフカの「私たちは、私たちを傷つけたり刺したりする種類の本だけを読むべきだと思います。私たちは読んでいる本に頭を殴られて目が覚めない場合、私たちは何のためにそれを読んでいるのでしょうか?」という文章を引用し、傷つきやすい読者ばかり意識したセンシティブ・リーダーの修正により、古典の内容がゆがめられてしまい、亡くなった作者は変更に対して口出しできない、という現状に批判的な意見を述べています。

マレー氏はまた、「小説によって私たちが気分を害してはならないという強迫観念により、作者の死後に作品を大きく改訂してしまうことで、過去が実際にどのようなものであったか、現代とどのように異なっていたかを知る機会を奪っています」と、当時の情勢を反映できなくなる点も懸念しています。専門家を雇って一定の型に合わせて書籍の内容を修正することは、誰かに悪意を持って害を及ぼすことを防ぎ、実際に誰かの感情を保護する可能性があります。しかしマレー氏は、「カフカが述べていたように本は慰めの為にあるのではないため、進行方向がハッキリしている群衆に異議を唱えることも、本の重要な意義です。作者が書いた言葉に忠実であり続けることで、少なくとも自分自身に正直になろうとする価値があります」と語っています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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