「アメリカ著作権局はフェアユースについて図書館利用者にうそをつくことを要求している」という指摘
フェアユースとは、複数の判断基準に照らして「公正な利用」に該当するものであれば、著作権で保護されたコンテンツを合法で利用できるという法律上の概念です。ところが、アメリカ合衆国著作権局は図書館で書籍や文献のコピーを行った利用者に対し、「フェアユースに関するうその通知」を出すように要求していると、ブリガム・ヤング大学の図書館司書であるリック・アンダーソン氏が指摘しています。
Why Does the U.S. Copyright Office Require Libraries to Lie to Users about Their Fair Use Rights? They Won’t Say. - The Scholarly Kitchen
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2023/07/05/why-does-the-u-s-copyright-office-require-libraries-to-lie-to-users-about-their-fair-use-rights-they-wont-say/
一般に著作権で保護されたコンテンツを利用するには著作権者の許可が必要ですが、その利用が公正なものであると認められた場合には、「フェアユース」として著作権保護の例外が認められます。アメリカにおけるフェアユースについては、合衆国法典第17編107条に記載されています。
107条では、「(著作権の独占的権利を記した)106条および106条Aの規定にかかわらず、批評・コメント・ニュース報道・教育(教師で使用する複数のコピーを含む)・学問・研究などの目的で、コピーまたはレコードなどによる複製、またはそのセクションで指定されたその他の手段による使用を含むフェアユースは、著作権の侵害に当たりません」と記されています。
ところが、アメリカの図書館で利用者が書籍や文献を複製した場合、以下のような通知が渡されるとのこと。
アメリカの著作権法(合衆国法典第17章)は、著作権で保護された資料のコピーやその他の複製物の作成について規定しています。
法律で指定された一定の条件下で、図書館や公文書館はコピーやその他の副生物を提供することが許可されています。これらの指定された条件の1つは、コピーまたは複製物を「私的研究・学術・または調査以外のいかなる目的にも使用しない」というものです。利用者が「フェアユース」を超える目的で複写または複製を要求した場合、または後にそれらの目的で使用した場合、利用者は著作権侵害の責任を負う可能性があります。
当機関は、複写要求の履行が著作権法に違反すると判断した場合、複写要求を拒否する権利を留保します。
この通知をそのまま読み取ると、107条で定められたフェアユースの範囲は「批評・コメント・ニュース報道・教育・学問・研究」であるのにもかかわらず、なぜか図書館や公文書館以外で書籍や文献をコピーした場合はその範囲が「私的研究・学術・調査」に限定されてしまうことになります。しかし、アンダーソン氏は図書館が出しているこの通知には問題があり、利用者に虚偽の事実を伝えていると指摘しています。
そもそもこの通知は、図書館や公文書館における著作権侵害の例外を定めた合衆国法典第17編108条に基づくものです。108条では、利用者の要望に応じて図書館や公文書館が著作物をコピーする場合、「著作権登録官(アメリカ合衆国著作権局の局長)が規定する要件に従って著作権の警告を通知する」ことが定められています。上の通知はアメリカ合衆国著作権局が規定した文章であり、図書館側はそれに従わざるを得ないとのこと。
108条の内容は107条で定められたフェアユースの範囲に影響を及ぼすものではなく、コピーする場所が図書館であろうと公文書館であろうと、利用者に認められたフェアユースの範囲は変わりません。図書館利用者に与えられる通知はフェアユースの範囲について虚偽の内容を含むものであるため、アンダーソン氏はこの通知は修正するべきだと主張しています。
アンダーソン氏は、「図書館が提供する著作物のコピーを『私的研究・学術・調査』の範囲を超えた方法で利用しても、それが107条のフェアユース規定の範囲に含まれる場合、法的な危険にさらされません。繰り返しになりますが、108条の文言は著作権局が定める通知にどのような記載があろうと、コピーの所有者による利用はフェアユースの範囲内にあることを明確にしています。問題は、著作権局が表向きは法令によって与えられた権限の下に、利用者に権利についての誤った情報を提供するように図書館へ要求していることです。図書館の利用者は私たちが提供したコピーを完全にフェアユースする自由があるにもかかわらず、私たちは利用者がコピーを作成したり要求したりするたびに、利用者がごく一部の権利しか持っていないと伝えなくてはならないのです」と述べました。
アンダーソン氏はこの件についてアメリカ合衆国著作権局に問い合わせたものの、質問に対して明確な返答はなく、現状はフェアユースについての通知を修正する意思もなかったとのこと。この現状を改革するべく、アンダーソン氏らはオンライン署名サイトの「Change.org」で人々からの署名を募っています。
キャンペーン · Stop the US Copyright Office from forcing libraries to lie to patrons about their rights · Change.org
https://www.change.org/p/stop-the-us-copyright-office-from-forcing-libraries-to-lie-to-patrons-about-their-rights
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