世界初の安全で効率的な水性アルミニウムイオン電池の開発が第1段階に到達
ほとんどの電池はなんらかの有害物質を含んでいて、廃棄すると環境を汚染する恐れがあります。南オーストラリア・フリンダース大学と中国・浙江科学技術大学のチームが、無毒で安全かつ効率的な「水性アルミニウムイオン電池」の開発の第1段階について、科学誌・Journal of the American Chemical Societyに報告を掲載しました。
Lewis Acid-Induced Reversible Disproportionation of TEMPO Enables Aqueous Aluminum Radical Batteries | Journal of the American Chemical Society
https://doi.org/10.1021/jacs.3c04203
'Radical' new green power source – News
https://news.flinders.edu.au/blog/2023/07/05/radical-new-green-power-source/
多くの電池には鉛、カドミウム、水銀など、人間や動物に有毒で、土壌や水を汚染する物質が含まれています。これらの有害物質は、環境中に長くとどまることも問題です。
多価金属イオン電池の正極の材料として用いられることのある2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)は、高い酸化還元電位と、速い電気化学反応速度を特徴とします。しかし、TEMPOとその誘導体は不均化と、酸性条件下でのニトロキシドラジカルの分解が知られているため、新しいアルミニウムイオン電池ではあまり使われていません。
フリンダース大学のZhongfan Jia准教授は、「Al³⁺、Zn²⁺、Mg²⁺を含む多価金属イオン電池は、地球の地殻にある豊富な元素を使用して、リチウムイオン電池よりはるかに高いエネルギー密度を実現しており、特に、3番目に多い元素であるアルニニウムを用いたアルミニウムイオン電池は、持続可能で低コストのエネルギー貯蔵システムになる可能性がある」と語っています。
しかし、アルミニウムイオン電池はAl³⁺イオン錯体の移動が遅く、カソード効率が低いという課題があるとのこと。
今回、研究チームはTEMPOの電気化学的挙動を有機および水性ルイス酸電解質の中で調査。有機電解質中でのTEMPOの不可逆的不均化を初めて明らかにしました。また、水性ルイス電解質中ではTEMPO全体で可逆的な電気化学的酸化還元反応が可能になることがわかりました。
これらの知見から、研究チームは耐火性と空気安定性を持つ、安定なラジカルポリマー水性アルミニウムイオン電池を設計。材料1グラムあたり110mAhの容量で、1.25Vの安定出力を800サイクル達成しました。サイクルあたりの損失はわずか0.028%でした。
この研究は、共役系有機分子に依存しているアルミニウムイオン電池に、非共役系の有機電気活性物質を用いることが有望であることを示しているとのこと。
Jia准教授は将来的に生分解質材料を用いたソフトパック電池を開発し、電池を安全で持続可能なものにしたいと考えているとのことです。
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