「マルチビタミンサプリを毎日服用することで高齢者の記憶力が向上する可能性がある」という研究結果が発表されるも効果はごくわずか、被験者の偏りや食生活の影響を鑑みないことから批判の的に
ビタミンAやビタミンB、ビタミンCなど、複数のビタミンを配合したサプリメントである「マルチビタミン」は服用することでビタミン不足による体の不調を防止することができるとされています。そんなマルチビタミンとミネラルのサプリメントを毎日服用することで、高齢者における記憶力の低下を遅らせることができる可能性がコロンビア大学で心理学を研究するアダム・ブリックマン教授が率いる研究チームによって報告されました。しかし、この研究では被験者が白人の高齢者に限られていたほか、有意な差とは言い難い差しか検出されなかったことや、食生活の影響が無視されていることが指摘されています。また、研究チームがサプリメントブランドや製薬会社から資金提供を受けていたことも指摘されています。
Multivitamin Supplementation Improves Memory in Older Adults: A Randomized Clinical Trial - The American Journal of Clinical Nutrition
https://doi.org/10.1016/j.ajcnut.2023.05.011
Multivitamin Improves Memory in Older Adults, Study Finds | Columbia University Irving Medical Center
https://www.cuimc.columbia.edu/news/multivitamin-improves-memory-older-adults-study-finds
Can a daily multivitamin improve your memory?
https://theconversation.com/can-a-daily-multivitamin-improve-your-memory-208114
研究チームは59歳以上の男性および64歳以上の女性合計3562人を対象に、マルチビタミンとミネラルのサプリメントを毎日服用する群、ダミーのサプリメントを服用する偽薬群に分け、二重盲検法のもとで各グループに対してオンライン認知テストを行いました。
オンライン認知テストは3年間毎年実施され、「3秒ごとに表示が切り替わる合計20個の単語を記憶する」ModReyタスクや、「20個の図形が与えられ、類似した図形から正しい図形を選択する。その後40個の図形が提示され、もとの20個の図形に含まれていたかどうかを判断する」ModBentタスク、「指定された条件に対応する色のブロックを選択する」Flankerタスクの3種類が詳しく調査されました。
研究チームによる調査の結果、1年後に行ったテストにおいてModReyタスクの成績だけが有意に向上していることが示されました。また、2年後、3年後のテストでは1年後のテストと比較して成績向上において有意な結果を残さなかったものの、3年間の結果を平均して「総合的な推定値」を算出したところ、有意な効果が認められたことが報告されています。また、サプリメント服用群、ダミーのサプリメント服用群のどちらも、服用しない群よりも成績は向上しており、サプリメント服用群のほうが成績向上の幅が有意に大きかったことが報告されています。
一方で研究チームによる実験や報告を受けて、シドニー大学の生物統計学者であるジャック・ラウベンハイマー氏は「得られた結果に対してt検定を行ったところ、最大の効果が得られたとされる1年後のModReyタスクに対するものでも、数値が大きいほど検出力が高い効果量の数値は0.07だったことが報告されており、この数値は一般的に有意差が生じたとは認められない非常に小さな数値です」と述べています。
また、研究チームは行った実験に対して、「適切な統計分析を行いました」と述べる一方、年齢や性別、人種、教育レベルなどの人口統計学特性については調整を行っていませんでした。研究チームによると、一般的にコンピューターに慣れ親しんでおり、認知機能が比較的高いとされる白人の参加者を対象として実験を行ったため、その他の人種での結果はどうなるか分からないとのこと。
さらに、男性は59歳以上、女性は64歳以上の参加者に対して実験を行ったため、サンプルの年齢層が高齢者に偏っており、若年層におけるマルチビタミンの服用による長期的な結果が明らかにできないことが指摘されています。また、参加者の3年間での食事の変化などが記録されていないため、食事の質や量などによって結果に影響が出る可能性もあります。これらの点をもとに、ラウベンハイマー氏は「実際のところ毎日マルチビタミンを摂取することに意味はあるのだろうか」と疑問を提起しています。
ラウベンハイマー氏は「今回の研究チームによる実験や報告は、せいぜい白人の高齢者がマルチビタミンのサプリメントを服用することで、特定の認知的タスクにおいて何らかの効果を示す可能性があることを示したにすぎません。それ以外の若年層や別の人種にとっての長期的な利益については、この研究では一切明らかにされていません」「急いでマルチビタミンのサプリメントを買いに行く必要はありません」と語っています。
また、ニューカッスル大学の栄養学教授であるクレア・コリンズ氏は「今回の研究チームによる実験結果は、毎日のサプリメントの服用による成績向上よりも、何度もテストを受けることで熟達することで得られる効果の方が大きいと考えられます」と述べています。さらに、研究チームがサプリメントブランドのPure Encapsulationsや製薬会社のファイザーなどから研究資金を受け取っていることについて「営利企業から資金提供を受けたことは研究結果に影響を与える可能性があります」と指摘しています。
なお、研究チームは研究機関における参加者の食事の質の包括的な評価がなかったことから「参加者は期間中に食生活を変えた可能性があり、食生活の変化が結果に影響を与える可能性があります。また、より健康的な食事をするための知識やスキル、リソースを参加者に与えることで、サプリメントの服用よりも認知機能に大きな影響を与える可能性があります」と述べています。
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