腸の善玉菌を爆増させつつ悪玉菌を激減させる「プロバイオティクス送達システム」が開発される
中国・鄭州(ていしゅう)大学の研究者チームが、腸内環境の改善や維持に役立つ善玉菌を長時間保護しつつ、有害な悪玉菌を排除する経口摂取可能なプロバイオティクス含有ゲルを開発しました。このゲルは、腸内細菌叢(そう)のバランスが崩れることが症状と関連している炎症性腸疾患の治療に役立つことが期待されています。
Calcium Tungstate Microgel Enhances the Delivery and Colonization of Probiotics during Colitis via Intestinal Ecological Niche Occupancy | ACS Central Science
https://doi.org/10.1021/acscentsci.3c00227
Crohn's and probiotics: Scientists find way to kill bad gut bacteria, not the good
https://www.medicalnewstoday.com/articles/crohns-and-probiotics-scientists-find-way-to-kill-bad-gut-bacteria-not-the-good
Helping 'good' gut bacteria and clearing out the 'bad' -- all in one treatment -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2023/06/230621105419.htm
2023年6月21日付けの査読付き科学誌・ACS Central Scienceに掲載された論文で、鄭州大学のJiali Yang氏らの研究チームは、胃酸などの消化液から善玉菌を保護しつつ大腸に生息する悪玉菌を抑制する「カルシウム・タングステン・マイクロゲル(CTM)」を発表しました。
このCTMはアルギン酸ナトリウム、タングステン、カルシウムを含むナノ粒子をゲルの粒に入れて、それをプロバイオティクス菌でコーティングしたもの。CTMを口から摂取すると、ゲルが胃酸からプロバイオティクス菌を保護しつつ大腸に届け、そこに長くとどまります。
そして、炎症性腸疾患の患者の腸内でよく見られるタンパク質とカルシウムが結合して粒が破壊されると、中からタングステンが放出され、有害な腸内細菌の増殖に必要な酵素の働きを阻害します。一方、プロバイオティクス菌はその酵素を必要としないため、有用な菌だけが大腸で繁殖できるという仕組みです。
このCTMは大腸炎、特にクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の治療に有効であると期待されています。
炎症性腸疾患は、アメリカだけで300万人が患っていると推定されている消化管の慢性疾患です。その発生メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、これまでの研究結果から、腸内細菌のバランスが崩れることで有害な細菌が過剰に増殖し、腸管のバリア機能や正常な免疫機能の働きを阻害しているのが原因のひとつと考えられています。そのため、炎症性腸疾患の治療には免疫抑制剤が用いられてきましたが、こうした薬品には高価な上に有害な副作用を伴ってしまうという課題がありました。
また、有望な治療法としてプロバイオティクスにも注目が集まっていますが、胃酸などの消化液で菌が死滅してしまうため、腸内の必要な部位に善玉菌を送り届けることはこれまで困難でした。特に、炎症性腸疾患では有害な大腸菌が異常増殖してしまうため、善玉菌を送り込んでも定着させられなかったとのこと。
研究チームが、人為的に炎症性腸疾患を起こさせたマウスにCTMを5日間投与したところ、有害な腸内細菌が45分の1に減少した一方で、プロバイオティクス菌のコロニーは25倍に増加しました。また、CTMを与えられたマウスの腸では、腸管バリアの損傷や大腸の萎縮など、炎症性腸疾患の指標とされるさまざまな問題も見られませんでした。
研究チームはこの結果から、「CTMは大腸の萎縮の改善、炎症反応の効果的な抑制、損傷した粘膜バリアの回復、腸内細菌叢の恒常性の回復など、大腸炎に対する驚くべき治療法の可能性があります」と論文に記しました。
・関連記事
ビールが腸内フローラの多様性改善に役立つかもしれないという研究結果 - GIGAZINE
アスリートの持久力をブーストさせる腸内細菌とは? - GIGAZINE
腸が人間の気分を左右する仕組み - GIGAZINE
食生活を変えても大人の腸内細菌は多様化しない - GIGAZINE
幸福度を高める5つの食べ物とは? - GIGAZINE
うつ病に「腸内細菌」が関係している新たな証拠が登場 - GIGAZINE
・関連コンテンツ